横浜院長のひとりごと No.274 2050年の精神科医療

部分日食が曇ってて見えずがっかり、横浜院長の柏です。平成最後の年が明けました。今年も当院および当ブログをよろしくお願いいたしますm(_ _)m。年明け早々ではありますが、1月中旬より私の診察時間帯に若干変更があります。柏が担当させていただいている方は、受付にてご確認のほどお願いいたします。

さて、今年の年初言はどうしようかと考えていたところに、1月3日の朝日新聞に興味深い記事がありましたので、今年はそのお話から始めましょう。記事はAIやロボットが将来の日本に果たす役割について書かれたものでしたが、その中に「AIやロボットに職は奪われるか」というタイトルで野村総研の研究成果が表になっておりました(詳細なデータはこちらから)。これによると、AIやロボットに代替されやすい職業として電車運転手、経理事務員がトップで代替される確率99.8%に対して、代替されにくい職業1位はなんと精神科医でこちらは0.1%とのことでした(2位は外科医、小児科医、ゲームクリエーター、バーテンダー、中学校教員などで0.2%)。精神科医の端くれとしては喜ぶべきことなのか?ちょっと複雑な思いでこの結果を見ておりました。と申しますのも、以前No.233でも書かせていただきましたが、私自身は精神科医は意外と早くAIに置換されるのではないか、置換されないにしても診断や治療のプロセスにおいてAIの力なしにはできない時代が来るのではないか、そのように真面目に考えているのです。
人の仕事がAIやロボットに置き換わる条件として、一つは(当然ながら)人よりもAIやロボットの方が得意とする仕事があります。工場はロボット化が進み、ルーチン化された計算業務などはソフトがこなす、といったことです。そしてもう一つの条件は、人にとっても難しい作業をこなすにあたり、AIやロボットが新たな視点を提供してくれる、すなわちAIやロボットがはじめて可能にしてくれる作業もあるかと思われます。

精神科医の仕事は精神疾患の診断と治療ですが、そもそも精神疾患の実態は脳の変調と考えられてはいるものの、まだ解明されておりません。従来精神医学はクレペリンやブロイラーなどの教えを元に、操作診断学はDSMやICDの基準を並べて、たとえば統合失調症と診断します。操作診断学は症状を羅列して、統合失調症であればA項目にある幻覚、妄想、まとまりない発語、まとまりない行動、陰性症状のうち2つ以上がないといけない、というように数で規定して行きます。これは、医師間で共通した診断を下すためには大切な考え方ですが、必ずしも治療と同期していません。一方従来診断学では、例えば統合失調症ではプレコックス感(Praecox Gefühl)というものが重視されます。これは、統合失調症の方と接する際に感じられる独特のコンタクト(接触感)のことで、表情や話し方、体の動きなどに現れる(典型的なものとして、しかめ眉、尖り口などがあります)ものです。これはなかなか定量化することが難しく、精神科医としての経験が物をいうところとなります。うつ病でも発達障害でもそうですが、疾患を抱えた方と多く接していると皆さんに共通するものが、なかなか言葉にするのは難しいけれども感じられてくる。もちろんプロであればこれを言葉にして伝えられなくてはいけないのですが、ここで行われていることは、患者さんの脳のアウトプットを精神科医の脳が感知していること。あちらの複雑系のアウトプットをこちらの複雑系が読み取るわけですが、これを言葉にするのはなかなか容易ではありません。いわんや、DSMのように数で決めるような単純な線形の様態は取ることができないのが、究極の非線形である複雑系の複雑系たるところだと思うのです...おっと、話がちょっとややこしくなってしまいましたね。とにかく、現状では精神科医はDSMなどを使って操作診断を行うことである程度の目安をつけ(こうすることで大きくはずすことは少なくなる)、その一方で経験を元に複雑系を解釈することにより診断、治療方針を立てている...少なくとも私はこうした方法を自然に取っていると自己分析されます。ある意味、合理論と経験論を組み合わせている(対象が複雑系なので、合理論だけでは不十分なところを経験論で補っている)とも言えるでしょう。
問題なのは、この経験論の部分が医師によってばらつきが大きい、というところです。これは医師の経験の量、経験の質、医師自身の能力などによって決まってくるところですが、ここを埋めてくれるのがAIではないかと考えるわけです。(なお、診断後の治療的関わりが医師〜患者関係においてなされることを考えると、医師によって若干の診立ての差異はあってしかるべきとも考えられます。ここでは、その前提となる共通認識のレベルで話を進めます。)

現状では、精神科で利用できる検査として画像検査、血液検査、脳波検査などがあるものの、人が結果を分析するレベルでは内因性精神疾患や発達障害の診断に直接役に立つレベルにはありません。しかし、最近ではAIを活用することによりこれを診断レベルに上げる研究が成果を上げつつあります(最近の例:福井大によるADHDの画像研究)。ホームビデオの分析にて自閉症児の診断をつける試み(文献:英文です)も興味深いですね。慶応大学には領域横断イノベーション精神医学研究室なるものも開設され、機械学習や自然言語処理などを使って診断や臨床評価などに役立てる動きが始まっているようです。近い将来、こうした技術を使って診断や臨床評価の標準化がより進み、より精度の高い臨床が行われる日がくることを期待したいと思います。
...というわけで、こうして書いてみるとあくまでもAIはサポート、なかなか精神科医がいらなくなるところまでは行かないのかな...というところで、新年第一回の今日の一曲。なんとまだこの曲をおかけしていませんでした。年の初めにふさわしく?ショパンの若々しいピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11です。この曲は名演がいくらでも挙げられるのですが、今日はあえてギレリスです。鋼鉄のタッチと言われ、ベートーヴェンやブラームスの演奏が有名ですが、このショパンは素晴らしい。オーマンディの指揮との相性も最高で、私のイチオシです。ではまた。


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