横浜院長のひとりごと No.288 ケタミン

横浜院長の柏です。先日、禅寺での座禅体験に行ってきました。なかなか煩悩から抜けられないのですが、まぁ囚われていることに気付いたことでよしとしよう...と前向きに捉えております(^_^)。
朝ドラ「なつぞら」、ビルドとメテオが兄弟と、これまたライダー俳優大活躍。すっかり若手男優の登竜門として定着した感がありますね。ジオウのみんなはどうなるかな?

さて、お待たせしましたが前回の続きのお話をしましょう。抗うつ薬は効いてくるのに時間がかかり、うつ病の治療は数ヶ月から年単位で行うのが常識です。それを打ち破る新しい治療法についてのお話です。

ケタミンという麻酔薬があります。これは薬理学的には興奮性アミノ酸であるNMDAの受容体拮抗薬で、幻覚作用もある薬です。私もかつて神経研究所にいた頃は、フェンサイクリジン同様に統合失調症のモデル動物を作成する際に使っていました。そのケタミンが、うつ病治療に役立つ、それも即効性の効果があるという報告がなされています。わが国でも、千葉大の橋本謙二先生が光学異性体のS-ケタミンの開発を行っており、治験に向けて動かれているようです。
ただ、ここで思い出されるのがリタリンです。リタリンは、物質名メチルフェニデートという精神刺激薬で、現在ADHDで使われているコンサータと同じ物質です。コンサータは特殊なカプセルを使い、メチルフェニデートが体の中に徐々に放出されることにより安全性を高めています(このあたりは謎なのですが、薬物の血中濃度の急激な変化が依存性や問題行動と関連しているらしい)。リタリンは現在、ナルコレプシーという突然寝てしまう病気でのみ使用可能となっていますが、かつてはうつ病も保険適応となっておりました。私自身は出したことがない(以前非常勤先のクリニックで、ふだんの主治医が出していたためにやむなく処方したことはあります)のですが、従来の抗うつ薬中心の薬物療法で効果が不十分の方の一部に効果は認められていたようです。が、新宿あたりの某クリニックがリタリンを大量に処方して社会問題となったため、リタリンのうつ病への保険適応は打ち切りとなりました。リタリンはナルコレプシーに対してのみ、それも特別な資格を取得した医師のみが処方できるという厳密なシステムに変更となったのです。ここで困ったのが、ADHDを抱えた子どもたちとその親御さん、小児精神科医たちでした。それまで、ADHDに対してリタリンはオフラベル(適応外)使用がなんとなく認められており、ADHD症状で困っている親子には福音だったのです。その後、困った方々の運動もあり、徐放剤であるコンサータが発売となるに至ったわけです。

ケタミンについては、薬理学的に似た薬物であるフェンサイクリジンがかつて米国でエンジェル・ダストの呼称で乱用され、当時統合失調症の発症率が増えた(=フェンサイクリジンにより統合失調症とよく似た症状を出す人が増えた)ということがありました。メチルフェニデートやアンフェタミン類(覚醒剤)が統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想、精神運動興奮など)と似た症状を出すのに対して、フェンサイクリジンは陽性症状に加えて陰性症状(全体的な機能低下)をも出すのが特徴です。ケタミンについても同様のリスクがあるものと考えられ、難治性のうつ病の方にとって福音となりうる治療ではあるが、使用(とくに長期的使用)には注意も必要な薬物と考えるべきです。
うーん、今日本当に書きたかったのはケタミンではなかったのですが、話が膨らんでしまいました。本編は次回のお楽しみとしましょう。

やはり10連休は長すぎたのか、気候が極端だからなのか、どうにも調子が上がりにくい方も見受けられるこの季節。今日の一曲は、ここは一発景気づけにワーグナーにしましょう。タンホイザー序曲をカラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏で。この官能美たるや、カラヤンの真骨頂たるところですね。ではまた。


コメントする