横浜院長のひとりごと No.308 多重人格

hitorigoto-308a.jpg横浜院長の柏です。2019年もラストスパートですね。発達障害の複雑型PTSDのことを書こうと思い、そのためにPTSDのお話をしているのですが、時事の話題が優先になるのでなかなか進みませんね(^_^;;。3回連続脱線で恐縮ですが(といいつつPTSDともちょっと繋がります)、今日は、前回ちらっと書きましたが、先日監修させていただいた仰天ニュースの内容についてです。ずいぶん前に出演させていただいて以来、時々制作会社のディレクターさんから連絡をいただき、ぽちぽちと監修らしき仕事をやっているんです。今回のテーマは、解離性同一性障害(dissociative identity disorder; DIDと略されます)、いわゆる多重人格です。ジキル博士とハイド氏のように小説のテーマとしては大衆の興味を惹きやすいようですが、当のご本人はなかなか大変です。DIDは、解離と呼ばれる精神現象の最も顕著なもの、と言っていいでしょう。解離とは、自身におきた出来事やその時の心の動きなどを、自身から切り離してしまう心の動きのことを言います。つらい出来事が起きた時、こころはいろいろな反応を起こします。不安が高まったり、抑うつ状態になったり、怒りが爆発したり...というのは一般的なこころの動きですが、出来事があまりにつらい、受け入れがたいものであった時、人によってはその出来事やその時のこころの動き、感情、そうしたものを飛ばしてしまうことで身を守ろうとします。それが解離性健忘と呼ばれるもので、ある出来事の間の記憶だけがごそっと無くなってしまったりします。最近トピックスでお話しているPTSDでもこれは見られ、PTSDのDSM-5診断基準ではD-1に「心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるもの...以下略)とあります。PTSDは「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事」といったレベルの心的外傷への暴露によるものですから、当然こうしたことが起きてくるのです。
DIDはこれがさらに進んだものとして発生してきます。前述のとおり、外傷体験に対して人によっては記憶を飛ばすことにより身を守るのですが、さらに耐え難い出来事が自分の身に、それも長時間、あるいは繰り返し起きた時、人によっては記憶を飛ばすだけではなく、無意識のうちに別人格(交代人格)を作り出し、その人格がそのつらい体験を引き受ける役割を果たします。どうも一度こうやって身を守るとこの「人格を作り出す」メカニズムが動きやすくなるようで、その後も大きなストレスのたびに交代人格を作り出す...ということが続き、一人の中にたくさんの人がいる...24人を抱えたビリー・ミリガンのように...ことも起こってきます。私が担当させていただいている方でも数名(全体数からすると決して多くはない)DIDの診断基準を満たす方がいらっしゃいますが、どの方もDIDを治してほしい、といらしたわけではなく、気分変調症や双極性障害など、他の疾患の治療中に徐々にその存在が明らかになってきます。これは、本人(主人格)は他の人格の存在を知らず、「記憶がない時間帯がある」ことや、送った記憶のないメール、友達や周囲から聞くことにより間接的に交代人格の存在を知ることが多いから、と考えられます。子供の人格がいたり、凶暴な人格がいたり、また全体を冷静に見ている人格がいたり...人によりこのあたりは様々です。本当なの?と疑いたくもなりますが、左利きの人格がいたり、やたら歌のうまい人格がいるなど、本人との違いが大きすぎる人格がいたりするので、なかなか否定するのは難しいのです(一部、未熟な性格の方で解離が完全でない=本人からみて記憶がつながっているケースもありますが、こちらは診断としてはDIDとするのは難しいところ)。治療としては、各人格にはそれぞれ登場した意味があること、それぞれ役割を受け持ちここまで皆で頑張ってきたことを保証しつつ、現在の脅威を最小化し安全を保証することにより、人格を統合したほうが全員の幸福であるという方向に向かうよう導いていく...なかなか難しい作業ではあります。
さて、今回の仰天ニュース。声優のアイコ事件、その名はなんとなくうろ覚えに記憶にはありましたが、こんな展開になっていたとは知りませんでした。番組での私の役割はプロットに医学的な間違いがないかのチェックですので、その範囲では大きな問題はないと判断しました。しかし、この判決自体には「うーん」と考えてしまいました。ここまで読まれた皆さんはどう考えますか?前述のように、交代人格は主人格の苦痛の代役として登場します。主人格は交代人格と入れ替わってその場を立ち去りますので、交代人格の存在は(直接的には)知りません。しかし、交代人格の側は主人格の苦痛を引き受けて登場しているので、主人格を知っている...影から見守ったり敵対したりすることも...ことは大いにありうるのです。私の担当した方でも、診察場面で解離を起こし、登場した交代人格から主人格を含めた全体に関わる秘密が語られたこともありました。まとめると、主人格は交代人格を知らないが、交代人格は主人格(の行動も)を知っていることはありえる、ということです。よって、犯行に及んだ交代人格が登場しているはずの時間帯に主人格がメールしていたとしても、それは主人格の行動を知っている交代人格が、主人格になりすまして行った行動である、ということは十分にありうる、と私は思います。いかがでしょうか?
hitorigoto-308b.jpgでは今日の一曲。クリスマスも近いので、日本人中年男子が一番よく知っているパイプオルガンの名曲にしましょう。トッカータとフーガパッサカリア(おっと、小フーガト短調まだやってないですね)ではありません。宮川泰作曲「白色彗星」、やはりパイプオルガンといえばこれしかないでしょう。「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」での史上最強、圧倒的強さを誇示した白色彗星のテーマ。対位法も駆使し、その圧倒的な力と見るものの絶望感を見事に表現しきった傑作です。オリジナルはこちらですが、関西学院大学の学生さんの演奏(すごい!)があったので今日はこちらを。写真はこちらも史上最強の敵役の一人、白色彗星のズォーダー大帝です。今年も残りわずか。元気に正月を迎えましょう。ではまた。

コメント(2)

関西学院大学1年生の男性(?)bravo!!
そしてご紹介くださった柏先生 ありがとうございました。何という超絶技法…学生さんということは素人さんといって良いのでしょうか? パイプオルガン演奏してみたい衝動と欲求に駆られてしまいました!!
先日 娘も通う母校より、新設したばかりのチャペルにパイプオルガンを!という名目の寄付を呼びかけられ、なぜ同時に着手せんのか…という疑問と少々の憤りを隠しえません。ノートルダムの専属奏者さんも 一度も触れぬうちに被災されたらしく大変残念そうでした。
宮川先生はご子息の彬氏に「お前のアレンジはダメ」とおっしゃったと聞きましたが、お別れの会…素晴らしかったではありませぬか…私は彬さんも好きです。
♪必~ずここへ~帰ってくると~ 信じて疑いません。
さて…受診の支度を整えねば…本日もよろしくお願いいたします。

ultimaさん
ですよね?大学1年生でこれはすごいです。自宅にパイプオルガンがあったりして(笑)
私の大学にもパイプオルガンあって、在学中(えらい昔の話や)ジグムンド・サットマリーの演奏を聴く機会もありました。一度弾いてみたいものですねぇ、みなとみらいホールが改装休業に入るようですが、その時にでも弾かせてもらえないかなぁ(無理)

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