横浜院長のひとりごと No.319 トラウマを超えて

横浜院長の柏です。新型コロナウイルス、いよいよ本格上陸ですね。最前線の現場で働く医療関係者の皆さんに、心より敬意を表したいと思います。また、ここまで叡智を尽くして拡大の最小化に尽力されている、専門家会議やクラスター対策班の皆さんの素晴らしい働き。皆さんがいなければとっくに医療崩壊、オーバーシュートに至っていたことでしょう。ここからはいかに緊急事態宣言のもと、人と会う行動を8割減らせるかに今後がかかっています。当院でも、現在いろいろと試行錯誤しつつ工夫を重ねております。ご意見ご批判などありましたらぜひお寄せ下さい。専門家会議の優秀さに比べて、政治にはいろいろ思うところがあります。2つだけ言わせていただきますね。

1) 家が火事の時に、立て直す新居の話をするな。まず火を消せ。


専門家会議や医療従事者、そして大衆がいかに火を小さくするか努力しているのに、和牛券やら旅行券やら、オリンピックの日取りを決めるとか、消し止めたあとの話ばかりするな。



2) 船が沈没して投げ出された人たちに、のんびりと一人ずつ泳げるかどうか聞くな。まずは全員に浮き輪を投げろ。


複雑な条件でお金を配っていては間に合わないでしょう。まず一律に必要な金額を配り、裕福な者からは確定申告、青色申告の際に戻させればよい。企業や店舗などへの休業補償もスピーディかつ十分な金額を。

さて、ちょっと間があきましたが連載に戻りましょう。発達障害者が複雑性PTSDを起こしやすい要件についてお話していました。その4.「特性による親や周囲からの本人への関わり方の違い」について、子どもから思春期にいたるまでのところをNo.317でお話しました。特性のため母親、そして友達からの視線、対応の違いが生まれる可能性があるということでしたね。今日は成人してからのことを考えてみましょう。

「複雑性」のつかないPTSD(心的外傷後ストレス障害)。事件や事故に巻き込まれる、戦争、暴力(リンチなど)、レイプ被害などが原因となります。複雑性PTSDの場合、繰り返されるトラウマ体験がその原因となるわけですが、生命の危機を感じるような災害や事故に繰り返し巻き込まれる人、ってまずいないわけでして(救助する側をのぞく)、複雑性PTSDの背後には必ず「人」の問題がある、といってよいと思います。子どもの時代には虐待、ネグレクト、いじめ...。大人では、配偶者(家族)からのDV、モラルハラスメント、職場でのパワーハラスメントなどが慢性的なストレスとなりえます。私の経験では、複雑性PTSDと診断がつく方は、そのほとんどが子ども時代からの慢性的トラウマを背景としています。しかし、そうしたトラウマを抱え、でも苦しいながらもなんとかやっていたものが、社会人になってからも仕事や家庭でトラウマ体験を重ね、コップから水があふれるように苦しくなり来院される方もあります。複雑型PTSDを考える上でも、大人のトラウマの問題は避けて通れません。職場では、ASDの方であれば社会コミュニケーション機能の問題から同僚や上司とうまくつきあえず、また仕事の指示が漏れる、こだわりから独特のやり方をしてしまうなど、ADHDの方であれば不注意からミスを重ねる、約束を忘れる、衝動性から不用意な発言を重ねるなどして、いずれも周囲の顰蹙を買い、ネガティブな評価、対応を受け続けることがあります。自分はだめな存在だ、生きる価値がない...そうした考えに支配されてしまうことが、この病気の一番こわいところです。

では家庭ではどうでしょうか。経験的には、ADHD, ASDを抱えた女性が夫からDVやモラハラを受けるケースが多いように感じます。女性の場合、なかなか発達特性が見えにくく、夫との関係からうつになった方をしばらく治療していて、あとになって発達特性に気づかれる方が多い印象です。一番難しいのが夫がASD、奥さんがADHDの場合でして、なかなか大変な場合があります。逆(夫がADHD, 奥さんがASD)でも大変なケースもありますね...。

ちょっと特殊...でもないか...なバージョンが「カサンドラ状態」と呼ばれるもので、かつてNo.178でご紹介しております(このときは「カサンドラ症候群」と書きましたが、正式の病名ではなく誤解を招きやすいので今回は「カサンドラ状態」としました)。これは、発達障害を抱える方のパートナー(妻の場合が多いが、夫でもありうる)において精神・身体の不調が出現してしまう状態のことです。つまるところ、夫婦間の力関係により、発達障害側が弱ければ複雑性PTSDなどの問題が、定型発達側が弱ければカサンドラ状態の問題が、それぞれ起きる可能性がある。しかし一方で、奥様の献身的なサポートによって発達障害を抱えた夫の特性がうまくコントロールされる、生かされるケースもいくつも見ています。直近では、成人したASDの息子とその母親との葛藤がこじれかなり深刻な状態となったが、家族面接、そして福祉介入により劇的に改善したケースを経験しており、支援者の立場の重要性を改めて感じたところでした。「特性による親や周囲からの本人への関わり方の違い」これは、関係者みんなの努力、支援者の適切な働きにより変えることが可能です...今日の一番のポイントはここね!

最後の今日の一曲。前回に続いてツイッターから。仁和寺のお坊さんの奏でる「情熱大陸」です。少しでも皆さんの元気に繋がりますように。ではまた。


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