横浜院長のひとりごと No.341 大きな脳

今日は勤労感謝の日ですが、救急当直で市内某所に詰めている横浜院長の柏です。春からストップしていた講演会講師の仕事が、ここにきてweb講演の形で集中している関係で、ブログ更新が遅れ気味です。どうもすみませんです。


自閉スペクトラム症(ASD)の成り立ちについて、今日は3回目になりますね。これまでで、生まれ落ちて最初に母親の視線に気づくのが遅れることが本質で、そのために対人関係が苦手になる一方で、他人をリファランスにしない独自の視点で世の中を捉えるようになる、というお話をしました。今回は、さらに彼ら、彼女らが見ている世の中について考えてみましょう。

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小児神経を診ている先生方の間では、「自閉症の子供は、頭が大きい」というコンセンサスがあると聞きます。論文(Amaral DG et al., TINS 31:137-145, 2008 図参照:年齢が小さいほど、定型発達に比べて全脳の大きさが〜6%程度大きいことを示しています)でもそうしたデータが示されています(なお、一方のADHDでは、脳の発達の遅れが指摘されています)。頭、つまり脳が大きいとはどういうことか、そこで有力な仮説は「刈り込み不全仮説」です。脳細胞は生まれたときが一番数が多く、その後環境に合わせて「刈り込み」という機能によって不要な神経回路が刈り込まれ、必要な脳細胞、神経回路のみが残っていきます。この地球上、生まれる場所や条件によって生育環境は大きく異なります。どんな環境であっても最適条件で生き残れるように、脳は柔軟な「可塑性」を持っています。その一つのメカニズムがこの「刈り込み」なわけです。この刈り込み不全にはmTORシグナル系の異常などが想定されています。これは全くの個人的仮説ですが、定型発達の子どもは他者をレファレンスすることにより効率的に刈り込みをすすめることができる(不要な神経回路の選定が容易)が、ASDの子どもではそれができない分、刈り込みが遅れるのではないか、なんて妄想も膨らみます(このあたりは卵かニワトリか論争かもなぁ)。


前回お話したような、他者をリファランスしないことによる独特の認知構造もそうですが、刈り込みが遅れた脳では神経細胞数・神経回路数が定型発達者の脳より多く、情報伝達の仕方が異なる...情報がより強く伝わったり、逆にうまく伝わらなかったりする可能性があると考えられます(イメージとしては、剪定していない盆栽や庭木でしょうか)。例えば知覚過敏。音、光、においなどに極端に敏感な方がいらっしゃいますが、これらも知覚・感覚に関わる回路が過剰に働いていることで説明できそうです。サヴァン症候群と呼ばれるような特定分野での圧倒的能力、写真をバシャッと撮ったように情景を記憶してしまう能力などのスーパー能力とも関係するでしょう。前回お話したこだわりや常同行動も、特定の回路がぐるぐると必要以上に回ってしまっているイメージですよね(あまり科学者らしからぬ表現だな...)。

では今日の一曲。ドヴォルザークのチェロ協奏曲です。いかにもドヴォルザークという、ボヘミアと新世界(アメリカ)の微妙なカクテル。「チェロ協奏曲」という枠組みでは史上最高傑作ではないでしょうか。とくに第1楽章の第2主題が素晴らしい。夭折した天才チェロ奏者、ジャクリーヌ・デュ・プレが、夫であるダニエル・バレンボイムの指揮するロンドン交響楽団と共演した1968年の映像が、奇跡的に残っていました。第3楽章の最初で弦が切れてやり直しになりますが、これも彼女の力強い奏法あってのことでしょうか。No.293でもお話しましたが、彼女が倒れた多発性硬化症は、現在では治る病気となりつつあります。医学の進歩に思いを寄せつつお聞き下さい。ではまた。


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