横浜院長のひとりごと No.349 ラツーダ

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横浜院長の柏です。毎週のように講演会に追われていて、なかなかブログの筆が進まず申し訳ない限りですm(_ _)m。20日土曜日、ポケモンGOのイベントが行われたのですが、いかんせんワタクシ土曜は一日診察日。うーん、こうしたイベントに参加できなかったの初めてじゃないかな。運営さん、イベントは土日連続開催にしてください〜(泣)あ、ingressもだよ〜。癪なので、土曜の帰り道になんとかゲットした色違いバリヤードでも載せておきますか。


ここでひとつお知らせです。開院以来ほぼ12年間、土曜日の診療に携わっていただいたI先生が、本務のご都合で3月中旬をもって退任されます。ハートクリニックは土日祝日含めた診療体制が本来なのですが、医師もライフワークバランスが叫ばれる昨今、なかなか週末に勤務いただく先生を探すのが困難な状況があります。以前より横浜院は日曜診療を停止させていただいておりましたが、土曜もこれで私の1診体制となり、かつ私の土曜枠はすでにパンク状態ですので、これまで土曜日にご受診いただいていた皆様にも極力平日に移っていただきたく、そしてこれからしばらくは、土曜日しか来院できない方を新たにお受けするのが難しい状況となります。ご迷惑をおかけしますが何卒ご了解のほどよろしくお願いいたします。


ではトリンテリックス、ラツーダ、デエビゴと続く新薬の印象シリーズを続けましょう。今日はラツーダ(一般名:ルラシドン)です。新薬は発売されてから1年間は14日間までしか処方できない、という縛りがあります。前回のトリンテリックスはすでに1年たっているので大丈夫なのですが、今回のラツーダは昨年6月11日、もう一つのデエビゴは昨年7月6日発売開始なので、これらはその時期までは14日縛りがかかっていることには注意が必要です。


ラツーダは大日本住友製薬が開発・発売する非定型抗精神病薬(atypical antipsychotics; 以下AAPと略します)。抗精神病薬とは、もともとはドーパミンD2受容体(以下、D2受容体と記載)を遮断する薬物群のことで、読んで字の如くでして精神病症状(幻覚、妄想、興奮、昏迷など:ドーパミン過剰が直接関係する症状群ですね)をコントロールする薬物、というのがその最初の意味合いでした。最初の、といいますのは、現代の抗精神病薬=AAPは、統合失調症のみならず、双極性障害(躁状態にもうつ状態にも)、うつ病の補助療法、自閉スペクトラム症など、幅広い疾患群の幅広い症状に効果が示されており、今や抗精神病作用だけの薬ではないということです。「非定型」というからには、当然ながら「定型」抗精神病薬というのもあります。これは第1世代と呼ばれる古典的な抗精神病薬でして、上述した精神病症状のコントロールがその作用の中心となります。代表的なものとしてコントミン(一般名:クロルプロマジン、1955年発売)とセレネース(一般名:ハロペリドール、1964年発売)があります。いずれも半世紀以上の歴史がありますね。私が研修医時代に勤めた都立松沢病院の精神科救急病棟では、コントミン300mg+セレネース9mgというのが約束処方のような形で頻用されていました。コントミンはD2受容体だけでなく比較的幅広い神経伝達物質に作用し、鎮静効果が高いのに対して、セレネースはD2遮断作用にかなり特化していて、抗幻覚妄想効果が高いという特性があり、両者の使い分けが当時の精神科医の技量を示していたものでした。救急病棟は夜間救急で来られる方をみていましたので、まずは十分な薬物療法を行い、その後必要なものに絞り込んでいく手法だったわけです。これら第一世代、定型抗精神病薬は陽性症状への効果は高いものの、錐体外路系の副作用が強く(パーキンソン症状など)、陰性症状への効果に乏しいという弱みもありました(陽性症状、陰性症状についてはNo.239もご参照ください)。しかし、今でもまだまだ現役、私の外来でも裏技的に活躍しています。その後は1996年に初の非定型抗精神病薬(第2世代)リスパダール(一般名:リスペリドン)が発売、そして21世紀に入り、2001年にセロクエル(一般名:クエチアピン)、ジプレキサ(一般名:オランザピン)が発売されました。D2だけでなく、セロトニン系など様々な受容体への作用を有する薬物群(MARTAとも呼ばれます)です。ジプレキサについては、陰性症状が強く、それまでいろいろな薬物療法を試みたものの自宅で無為に過ごしていた患者さんが、これまで見たこともない生き生きとした表情に変わったケースを数例経験し、非定型薬の凄さをまざまざと感じました。これは統合失調症治療の革命だ!と思ったものです。その後、大塚製薬から同社で開発されたエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)、レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)という国産の素晴らしい薬も発売され、切り札はジプレキサかエビリファイか、といった時代が続きました。さらに、このあたりの薬物は前述のように双極性障害治療やうつ病の補助療法としても効果がある(保険適応はものによりますが、実際には少なくともこの4つはどれも効果があります)ことが示され、さまざまな疾患に幅広く活用されるようになりました。ただ、とくにジプレキサとセロクエルは体重増加、脂質・耐糖能異常などのメタボ系副作用が強く、ネット上で「でぶぐすり」と呼ばれるなどの不名誉な状況となりました。私も、症状はよくなるけれど体重が増えてしまい、やむなく変薬せざるを得なかったケースを経験しています。


ラツーダは、ジプレキサに近い効果を持ちつつ、メタボ系の副作用がほとんどない薬、というところがポイントだと感じています。ジプレキサやエビリファイはまず統合失調症の保険適応が通り、あとから双極性障害の適応が追加になっています。ラツーダは、発売時からその両疾患に同時に保険適応をもって登場する、というこれまでにない形での発売となっています。20mg〜80mgと20mg刻みの剤形となっており、統合失調症は80mgまで、双極性障害のうつ状態には60mgまでとなっています。この半年余りの使用感として、効き応えはジプレキサに近く、しかしメタボ系の副作用は経験せず、量を増やすと人によっては錐体外路系副作用(手の震えなど)が出ることがある、といったところです。ジプレキサやセロクエル、エビリファイなどでもそうでしたが、双極性障害のうつ状態への使用にあたっては、実は少量の方が効果が高いことがしばしば経験されます。ジプレキサであれば、統合失調症や躁状態なら20mgまで使いますが、うつ状態では2.5-5mgくらいが一番効果が高いと思います。ラツーダも、双極性障害のうつ状態に使用するときは、実は20mgで十分ではないか、というのが最近の印象です(患者さんによっては、より高用量が必要な場合はもちろんあります)。抗精神病薬がもともとD2遮断薬であることを考えれば、うつ状態の治療ではD2遮断よりもセロトニン系など他の受容体への作用がメインなのでしょう。


ラツーダは、D2のみならずセロトニン(5HT)-1A, 2A, 2C, 7, アドレナリンα1, α2A, α2Cといった幅広い受容体に親和性があります。それぞれの受容体への結合の強さは、5HT-2A, 7 > D2 > 5HT1A > α2C, α2A, α1 > 5HT2Cとなっており、セロトニン系への作用の強さが特徴的です。前回のトリンテリックスと共通するのが5HT-1Aと5HT-7です。5HT-1Aについては、セディール(一般名:タンドスピロン)という抗不安薬がありますがマイルドな薬であり、個人的にはトリンテリックス、ラツーダという有望新薬の秘密は5HT-7受容体ではないかとにらんでいます。この受容体、気分改善効果や認知機能改善効果を示す可能性がある、という基礎的データはあるようですが、いかんせん一番新しく発見されたセロトニン受容体でもあり、まだまだよくわかっていないというのが現状なのです。いずれにせよ、ラツーダは比較的副作用が少なく、しかし従来薬同等以上の効果が期待できる楽しみな薬物というのが、この1年弱での私の印象です。


ラツーダのことだけ書くはずが、抗精神病薬の歴史から始めちゃったんで長文になってしまいました。すみません。最後に今日の一曲は、ショパンのノクターン(夜想曲)第13番ハ短調作品48-1です。ノクターンといえば、静かな小品の並ぶショパン珠玉の作品集ですが、このハ短調はちょっと異質です。ノクターンらしい静かな出だし、美しい中間部。しかしそこからはノクターンらしくない激情的なパッセージが進行し一気に結末に至る、そんなドラマチックな作品です。私のこよなく愛するこの曲、今日はユンディ・リによるスタジオ録画でどうぞ。ではまた。

コメント(2)

いつもお世話になっています。t母です。
薬に関する情報とご説明、大変興味深く読ませていただきました。
ありがとうございます。
昔の薬のお話しから今に至る新薬の効果のほどを詳しくご説明いただき
なるほどなぁ〜と納得いたしました。

まだまだ長い道のりは続くようですが焦らずゆっくりと
歩いて行きます。
新しい薬の効果にも期待していきたいです。
これからも先生&スタッフのブログを楽しみに読ませていただきます。
お忙しい毎日にお身体にお気をつけてお過ごしください。
ありがとうございました。

t.mamaさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
本来、診察室で皆さんにこうした説明をできるといいのですが時間的な問題もあり、ブログを活用しております。
薬も大事ですが社会資源の活用、規則的な生活習慣などほかにも改善のために大切なことがたくさんあります。一緒にじっくり進んで参りましょう。

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