横浜院長のひとりごと No.352 際立つ

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横浜院長の柏です。日曜夜の大雨にも負けず、桜は満開ですね。皆さんご覧になりましたか?今だけですヨ。さてこの土日、昭和大学にて第2回成人期発達障害臨床医学会の総会・学術集会が、旗の台の昭和大学上條記念館にてリアル学会として執り行われました。そうです、私が昨年度第1回の大会長を努めた学会です。ここのところ、学会も講演会もweb開催が続いており、久々のリアル学会でした。理事会でも開催形式について議論になったのですが、結果としてはやはり議論も盛り上がり、リアルでやってよかったな、と。入り口に非接触体温測定器と消毒液、会場も席の間隔を取り、慎重に運営がなされました。ご協力いただいた皆さん、ありがとうございました。
前回は1日でコンパクトに行いましたが(前回の内容は新書になっています。読んでね)、今回は2日間みっちり...久々のリアル学会でもあり、講演に座長2つもありでなかなか疲れましたが、充実感があります。
今回は当事者団体代表の方のご発表もあったり、福祉系支援者の方々も質問に立たれたりと、この領域の裾野の広さを感じました。医師を中心とはしつつも、今後この学会をどのような形で育てていくか、考えていかなくてはなりません。


学会では綺羅星のような発表が並び、大変勉強になりました。その中でいくつか、印象に残った言葉がありましたので、これから数回に分けてここでもご紹介することにいたしましょう。私のTwitterでは先行してご紹介していますので、そちらもフォローしていただけると喜びます。ブログは、その内容をじっくり深めていく方向で使い分けていきます。
まずは学会運営でも親しくさせていただいている小野和哉先生。発達障害を従来の精神疾患の概念のどこに位置づけるか、という重要なテーマについて話されましたが、その中で心に残った言葉がありました。それをご紹介したいのですが、まずは前置きの話から始めましょう。
発達障害にみられる特性は、生まれつきのものであるが、環境によってストレスが強まると、特性が強まる、あるいは目立つようになることが知られています。環境さえ本人に合っていれば、どんなに特性が強かろうと、仕事に生活にハッピーに過ごされている非定型発達の方はたくさんいらっしゃると思います。知的に高くて自分で工夫して環境を調整できる人もいるし、そうでなくとも、周囲が本人をサポートしてストレスの少ない環境を作ることができれば、そんなに特性が目立たずに過ごせるものです。そもそも「発達特性のある人=発達障害」ではありません。発達障害、あるいは神経発達症という診断をつけるためには、その特性により何らかの困りごとがあることが必要条件です。DSM-5による診断基準では、C項目として「その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている」というのが診断基準に入っているのです。このあたり、精神科ならでは、ですよね。他の科ではなかなかないことと思われます。糖尿病の診断基準を満たしてるけど(自覚的には)困ってない人ってたくさんいるでしょうけど、その人たちはやはり糖尿病なわけです。
そうやって、普段なんとかやっていた発達特性のある方が、何らかの理由で環境に変化が生じた場合、不適応をおこして発達特性が強まる、あるいは目立つようになることがあるわけです。


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ここで「強まる」と書きましたが、本当に「強まって」いるのでしょうか?ここでちょっと思考実験におつきあいください。物理の授業を思い出してね(^_^;。図のAをご覧ください。池の中に山があります絵だと思ってください。横からその山を眺めると、水の上に出た部分だけが山として見えます。この山が大きく見えるようになる場合を考えてみたいのですが、山が大きく見えるためには、実は二つ可能性があります。Bは、山そのものが(地殻変動とか埋め立てとかで?)高くなる場合。Cは、山の高さは変わらないのだが、まわりの池の水位が(干ばつとか堰を開けたとかで?)下がった場合。どちらも山としては高く見えますよね。
話は戻りますが、特性が「強まる」と言ってしまうと、言葉の意味としてはBの方になりますよね。なんか、特性自体がガーンと強まる事態。でも本当はCがより実態を表しているのです。本人が周りの変化に適応できない、というのは、裏返せば周りが本人に適応できない、のです。あらゆる物事は相対的なもの。このベクトルの発想は非常に重要ですので覚えておいてください。
周りが本人を支える力が減っている、つまり山の周りの水の量が減っているのです。なお、ここで注意していただきたいのは、「周りが悪いんだから、自分は悪くない!」と開き直っても物事は解決しないということです。周囲の協力、本人の努力、調整役の支援者、サポーターの働き、皆の力で状況を少しでもよい方向にかえていく、それが発達障害の支援であり、治療でもあるのです。
Cの図で山が高くなるのをどう表現するか。発達特性が「目立つ」ようになる、というのがこれまでの一般的表現でしょうか。これは全くもって正しいのですが、どうも「目立つ」という単語には「悪目立ち」的なニュアンスが入ってしまい、失敗して怒られる姿が浮かんでしまうイメージがありませんか。
そこで小野先生が提唱されているのが、発達特性が「際立つ」という表現です。なんかよくないですか?この言葉。もちろん、「際立って悪い」という使い方もないわけではないですが、「目立つ」よりはるかにいい表現ですよね。なかなか、説明は難しいところですが。「際立つ」...英語ではprominenceと紹介されていましたが、個人的にはsalienceが好みかな。prominenceも悪くないんですけどね。
ストレスがかかる、環境が苦手な方向に変化する、そんな時に発達特性が「際立つ」ようになります。そのことによって周囲に気づかれ、あるいは自分で気づき、支援や受診につながることが多いのです。ピンチはチャンス。よりよき職業生活、日常生活を送るために、一人で頑張りすぎず、ヘルプを求めてください。味方はたくさんいるものですよ。
では今日の一曲。ここでは一度もご紹介していない作曲家...実は最近マイブームなのが20世紀ロシアの作曲家、セルゲイ・プロコフィエフです。4つの小品作品4から第4曲「悪魔的暗示」を例によってキーシンのピアノでどうぞ。コンサートのアンコールのようですね。作品4ってことで、どうやら17歳頃の作品みたいでびっくりです。なんというか、感性をぶっ飛ばして脳に直接入ってくるといいますか、独特の魅力に最近病みつきになっております。ではまた。


コメント(2)

こんにちは。初めて投稿させて頂きます、ミクロコスモスです。
柏先生には、いつも診察室でお世話になっております。
柏先生の影響で、数年前からホロヴィッツを聴くようになりました。 
プロコフィエフにはあまり詳しくないのですが、「戦争ソナタ第7番」が好きで、家にたまたまホロヴィッツ盤があったので、今回良い機会と思い、改めて聴いてみました。なかなか良かったです。 
柏先生がアップして下さったキーシンのプロコフィエフ、凄まじい吸引力でした。プロコフィエフは小品も良いですね。
先日、愛着障害やトラウマ関連の本を数冊入手し、少しずつ読み進めています。また、診察室でご助言頂ければ幸いです。 
 
 

ミクロコスモスさん
コメントありがとうございます。気づくのが遅れてすみませんでした。
ミクロコスモス…バルトークですね。いつかご紹介したいと思っていた曲(てか曲集か)の一つです。
戦争ソナタいいですね。たしかにこの曲はホロヴィッツが至高です。私の最近のお気に入りは第◯番でして、これも近いうちにご紹介しましょう。
愛着障害、トラウマは、時間を味方にしてじっくり治していきましょう。
ではまた、診察室でお待ちしています。


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