横浜院長のひとりごと No.356 ストラテラ

横浜院長の柏です。だいぶ暖かくなってきて、街には花が美しく咲いています。ADHD治療薬についてのお話、第2回の今回はストラテラです。

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ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)
現在、アトモキセチンとして後発薬も入手可能です。ストラテラはカプセル製剤ですが、後発薬では錠剤もあります。
私にとってストラテラは、大人のADHD治療においてのゴールデンスタンダードという位置づけになります。ゴールデンスタンダードとは、まあこれやっとけば間違いないよね、という第一選択薬のことですね。子どものADHDを診られる医師では、比較的コンサータを好まれる方が多いようですが、このあたりは大人と子ども、専門とするターゲットの違いが現れているようです。


ストラテラのメリットとしては、
・ADHDの主要症候のコントロールに安定した力がある。
・気分の変化、不安など精神症状面での悪化(副作用)は多くない(ないわけではないので注意)。
・効く人には長期的な社会生活の安定効果が高い印象がある。
・後発薬があるので、他の薬剤より比較的費用負担が少ない(といっても高いけど...)。
逆にデメリットとしては、
・効果発現までに時間がかかる。
・消化器系副作用が出やすい。
・本人に効果がわかりにくいことがある=アドヒランス低下リスクがある。
といったところでしょうか。

ストラテラは、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬。脳内のノルアドレナリン濃度を上昇させます。薬理作用としては、抗うつ薬であるSSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の働き方と似ています。SSRIがセロトニンを、SNRIがセロトニンとノルアドレナリンを増やすのと同様のメカニズムで、ノルアドレナリンを増やします。そうした薬理作用から、当初ストラテラは抗うつ薬の候補として開発された経緯があります。結局、抗うつ薬としての臨床試験は効果を示すことができず失敗に終わったのですが、その後ADHDに対する効果がわかり、広く使われるようになりました。このあたり、似ている薬理作用にも関わらず違う病気に効く、というのは不思議なところであり、またそこには重要な秘密が隠されている気がしますね。


そうした薬理特性から、ストラテラはSSRIやSNRIと、効き方や副作用の出方がよく似ています。われわれ大人を診る精神科医、とくにクリニックの医師にとってはうつ病、不安障害は一番診療する機会の多い疾患であり、SSRI, SNRIは日常的に処方し使い方は熟知しています。ストラテラはそれらに近い薬であるということが、大人のADHD診療において医師からすれば使いやすさの理由になっていると思われます。SSRI, SNRIに限らず抗うつ薬は、服用を開始してから実際の抗うつ効果が現れるまでにタイムラグがあることが知られています(速効性抗うつ薬については、No.288, No.289をご覧ください)。早くとも1週間、通常は数週間かかるものですが、ストラテラも同様のタイムラグがあります。ここはADHDの方にとっては辛いところがありまして、衝動性=待てない、という特性が強い方には、なかなか効いてこない=実感を持てないことから服薬のモチベーションの維持が難しいことがあります。そうでなくともそもそものみ忘れやすいわけですから、これはストラテラを使う場合の大きな課題といえます。しかし、われわれ治療者からみると、以前もお話しましたが「ゆっくりよくなる方がその後の治りが良い」という感覚(あるいは思い込み(^_^;)がありまして、ADHDにおいても、薬物療法による効果は「見ている世界が変わる」わけですから、これは下手をするとコペルニクス的展開といいますか、天地がひっくり返りかねない出来事なわけです。個人的には、ストラテラくらいゆっくり効くほうが安全ではないか、と考えるわけです。
のみ心地、効き心地ですが、コンサータがガーンと活を入れるというか、バチッと見えるようにさせて注意障害を改善するのに対して、ストラテラはよりマイルドに、落ち着いて周りが見えるようにすることで注意障害を改善する、そんな違いがあるように感じられます。コンサータはバリバリサラリーマンを作り、ストラテラは冷静沈着な企業戦士を作る、といったらいい過ぎですかね(^_^;;。ストラテラはより自然体でいろいろなことができるようになるイメージでして、大人のADHD患者さんは不安や抑うつなどの症状を伴っている方も多いのですが、ストラテラによってそのあたりにもよい効果がある印象があります。これは、ADHD症状が改善することによる二次的な効果なのでしょうが、ときにそれにしては早く効果が見られ、ストラテラ自体が不安抑うつに効いたのではないか、と思われることもあります(このあたりは私の感覚でして、エビデンスに基づく話ではありません。ただ、こちらの文書では治療抵抗性うつ病に適応外使用されることもある、との記述はありますね)。このあたりも、私が無意識にストラテラを愛用する背景なのかも知れません。
副作用は、やはりSSRI/SNRIと似ておりまして、一番多いのが悪心でして添付文書によると31.5%とかなり高いです。胃の弱い人には、はじめ胃薬を一緒に飲んでいただくことで乗り越えられることもよくあります。といいますのは、悪心などの消化器症状はのみ始め、増やし始めが一番多く、徐々に慣れて大丈夫になってくるものだからです。あとは、頭痛と眠気がそれぞれ15%ずつくらい。これらで中止せざるをえない人が一定の割合でいらっしゃいます。また、こうした薬物を使う際には精神系への副作用にも注意が必要です。SSRI/SNRIでは気分が高揚したり攻撃的・易刺激的となったり、危険な行動に走ったりしてしまうことが稀にあり、アクティベーション・シンドロームと呼ばれ注意喚起されます(われわれは当然、周到な注意を払って処方します)。ストラテラでもそういう報告(小児例ですが)があるようで注意は必要ですが、私自身はまだ、かなりの数を処方しておりますが明らかなアクティベーションは経験しておりません。
さて、コンサータがドーパミンへの作用が中心なのに対して、ストラテラはノルアドレナリンへの作用が中心となります。ノルアドレナリンということでひとつ注目されるのが時間感覚への作用です。小脳などが時間感覚と関連し、ノルアドレナリンがそこに重要な役割を果たしていることがわかってきています。このことから、ストラテラはADHDにおける時間感覚の問題の改善が期待されます。実際「時間に追われることが少なくなる、遅刻が減る、段取りがよくなる」といった効果が見られる方もあり、これもストラテラの重要な効果のひとつと考えられます。
なんだか前回、今回でコンサータブブー、ストラテラマンセーみたいな印象を与えてしまったかも知れませんが、実際にはコンサータの方が合う方もありまして、患者さんそれぞれにおいて最適な薬物療法を模索する形となります。私の場合は、その入口がストラテラの場合が多い、ということなのです。
ちょうど先週、新たなノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるViloxazine(商品名Quelbree)がADHD治療薬としてアメリカFDAの認証を受けた、というニュースが飛び込んできました。新たな非中枢刺激薬として期待できるかも知れませんね。


今日の一曲は、No.352のコメント欄で予告したプロコフィエフのピアノソナタにしましょう。それは、第6番イ長調作品82です。冒頭、そしてフィナーレで鳴り響くメインテーマの不協和音がたまりません。この曲は、そのプロコフィエフの狂気的ともいえる天才ぶりを余す処なく弾ききった、ポゴレリッチの演奏が至高でしょう。ポゴレリッチくらい当たり外れの大きい天才も珍しいといいますか、以前コンサート行ってガッカリしたこともある(曲なんだったっけ?とにかくテンポが遅すぎた)のですが、この演奏はすごいです。
次回は大人のADHD治療薬として最後発、インチュニブについてお話できればと思います。ではまた。


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