横浜院長のひとりごと No.368シゾチーム

横浜院長の柏です。依頼された論文書きに追われてちょっと時間が取れませんでした。久々のブログ更新となります。今日は、その論文を書きつつ考えていたことをブログにしたためたいと思います。
発達障害という言葉が市民権を得てそれなりに時間が経ってきました。発達障害者支援法ができて、成人の発達障害への支援体制が整ってきたのが2005年になります。そこからすでに16年。診断基準も変わり、アスペルガー障害という言葉もそこから消えて、新しい言葉として自閉スペクトラム症(ASD)という言葉が市民権を得ています。日本精神神経学会では、いろいろな精神科の病気について「障害」という言葉を使うのをやめて、「症」への統一の方向を打ち出しています。双極性障害は双極症、不安障害は不安症、そういえばASDも最初の訳語は自閉症スペクトラム障害、だったものがその流れで自閉スペクトラム症となったわけです。なので発達障害も「発達症」というのが学会認定の新用語なのですが、しばしば特集を放送するNHKも発達障害という言葉を使っており、ここまで一般用語として普及すると、なかなか学会幹部の思うようにはならないようですね。

医師同士、医療関係者同士で担当する患者さんについて話す際、例えばうつ病の方であっても「あの方は発達特性が見られて」みたいな話をすることがあります。うつ病、不安障害、などなど、さまざまな精神障害の背景に発達特性が見られ、そうした背景に基づく困難、生きづらさが二次障害として精神障害の形をとって現れることがあるわけです。そうしたことを分析し、よりよき治療につなげるため、「発達特性」という言葉を使って話をするわけですね。今はコロナ禍なのでいろいろ難しいのですが、こうした同業者同士の会話って結構大事で、自分が気づかなかった視点、治療のヒントを得られることがままあるわけです。

今はもうベテランといいますかロートル(^_^;となって久しいワタクシですが、初々しい研修医時代もあったわけです。なんかほんの昨日のことのようなのですが、30年以上も昔のことなんですね(遠い目)。まだまだ駆け出しの頃、本や論文を読んで勉強するのはもちろん、先輩や同期のみんなとワイワイと患者さん談義をすることが、それこそ精神科医として腕を上げるには一番重要な方法だったように思います。当時はまだ発達障害などという言葉はなく(実はあったのか?)さて医師同士でどんな会話をしていたっけ、と考えた時、冒頭に書いた依頼論文を書いている途中に調べていて出てきた単語が出てきたわけです。それが今日のタイトル、「シゾチーム」です。塩化リゾチームじゃないよ。シゾチームSchizothym:孤独を愛し、世間の評価などを気に留めないような性格傾向を言います。Schizoとは分裂を指し、Schizophrenieは統合失調症ですね。病気になるとシゾフレニー、病前性格がシゾチームです。病前、と書きましたがシゾチーム傾向のある人(そういう性格の人)が統合失調症になるというわけではないです。なので、シゾチームは病気ではなくあくまでも性格、性質を表しています。

現在、同業者同士で「うつ病の○○さん、どうも発達特性がありそう」という会話がなされるところ、当時は「うつ病の○○さんだけど、シゾチームなところがあるよね」という会話が同様になされていたわけです。時代とともに言葉や疾病概念は変わっていきますので仕方がないことですが、「そういえば最近シゾチームという言葉を使っていないな」とふと感じたわけですね。
さきほどシゾフレニー、シゾチームと書きましたが、ここでもう一つシゾイドSchizoidというのがあります。シゾイドはドイツ語読みで、英語読みだとスキゾイドですね。「この患者さんはシゾイドの要素が」という医師同士の会話も、ないわけではないですが昔よりだいぶ減った印象だなあ。シゾイドは現在ではパーソナリティ障害の一つ、schizoid personality disorder(シゾイドパーソナリティ障害)に相当します。

DSM-5によると,パーソナリティ特性とは「環境および自分自身について,それらを知覚し,それらと関係をもち,それらについて思考する持続的様式」とあり、パーソナリティ障害とは「その人の属する文化から期待されるものとは著しく偏った内的体験および行動の持続的様式であり,それは認知,感情性,対人関係機能,または衝動の制御のうち少なくとも2つの領域に現れる」(基準A)とあります。周囲や自分についての認識が一般と異なっており、そのためにいろいろな課題を抱えている人たち、ということになります。
さてこのシゾイドとASDの関係性がなかなか難しいんですね。上に書いたパーソナリティ特性とパーソナリティ障害の定義。そのまま読めば、それを発達障害者にあてはめることも可能ですよね。そう、実は発達障害とパーソナリティ障害の区別については...臨床家からは全然ちゃうやん、という声も聞こえそうですが...いやいやそうでもないのではないか、というのが最近の私の考えです。このあたりを次回ちょっとまとめてみましょう。

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さて、No.330でもご紹介しました、当事者で独学で脳科学を極めているHiroki Hayashiさんの新刊電子書籍が出ました。これまでの著作のハイライトをまとめた廉価版ですが、新たな知見も加えた意欲作です。私は監修ということになっていますがほとんど何もしておりません!(えばるな(^_^;;) ぜひ皆様にもご一読いただければと思います。

ではこちらも久々になってしまいました、今日の一曲。東京オリンピックのおかげですっかり悪名高くなってしまった「バッハ」ですが、元祖J.S.バッハは不滅です!ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050を、モーツァルト管弦楽団のメンバーでどうぞ。なぜか、かのクラウディオ・アバドが指揮してます。こちらからどうぞ。ではまた。

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