横浜院長のひとりごと No.371 中庸

横浜院長の柏です。毎月学会で演題を出している状況で、なかなかブログを書く時間が取れず失礼しております。9月京都、10月東京に続いて来月は滋賀で成人発達障害支援学会があります。1997年〜2000年の3年間、20世紀の終わりを過ごした懐かしの地でもあります。

さて、今回のテーマは「中庸」としました。中庸(ちゅうよう)。広辞苑によると「かたよらず常にかわらないこと。不偏不倚で過不及のないこと。中正の道。」とありますね。精神科における養生のコツはいろいろありますが、この「中庸」を心がけることは特に大切なことだと感じています。
元気なのはいいことだけれど、元気すぎると動きすぎて疲れてしまいますし、やりすぎは失敗のもとでもあります。元気がなさすぎると、基本的な生活にも支障をきたしてしまいます。眠れないのは困るけど、寝すぎてしまうのもまた困りもの。何事もほどほど、が肝要ですよね。


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9年前の初期のブログ(No.016)でご紹介した、健康な脳の平衡状態の図を再掲します。健康な状態では、脳はこのように多少揺れてももとにもどる復元力を持っています。元気がありすぎずなさすぎず、睡眠は長すぎず短すぎず。


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しかし、平衡状態が崩れるとこの図のように、少し力が加わるだけで坂道を駆け落ちるようにより極端な方向に変化が生じます。元気がどんどん出すぎて躁状態に、あるいはどんどん眠れなくなり不眠症に、といった具合です。
うつ病の診断基準を見てみましょう。下の方にある、DSM5の診断基準を見てください。その3番から5番をみると、「体重減少または体重増加」「不眠または仮眠」「精神運動焦燥または制止」とあります。両極端ですよね。うつ病という病気のメカニズムが発動して、食欲や睡眠といった人間にとって基本的な部分にゆらぎが生じ、2番目の図のような状態になると、過食か不食、仮眠か不眠と極端な状態となるわけです。健康な人では中庸が保たれ、ほどほどの食事と睡眠を保つことができます(医学的には、ホメオスタシスと呼ばれます)。不安障害で言えば、何でもかんでも不安に感じてしまう全般性不安障害、不安から確認行動を止められない強迫性障害などは、不安サイドに坂を降りてしまっているわけです。しかし、といって不安と反対のサイドに坂を降りすぎても困ります。「不安を感じない」が行き過ぎると危険に対して身を守る体勢が取れなかったり、どうでもいいや、と万事いいかげんになったりすることになります。適度な不安は、生きていくために必要なものなのです。余談となりますが、薬物療法においてもこの点に気をつけておくことは大切です。抗うつ薬に分類されるが不安を軽減する力の強い薬にSSRIがあります。SSRIを使うと、不安が軽くなる、まあいいかぁ、と流せるようになるのはいいのですが、人によってはこれが行き過ぎてしまい、やるべきこと、やらなくてはいけないことまで「まあいいかぁ」と流してしまうことがあり、うつ病者とは違った意味で「やる気が起こらない」状態となることがあります。これはamotivational syndrome(無気力症候群とでも訳すのでしょうか)と呼ばれ、activation syndrome*)と並んで、いやその影に隠れてわかりにくいですが、注意すべき副作用(というかある意味効きすぎ)です。
(*: SSRIなどの薬物によりかえって気分や行動が不安定となり、攻撃性や自殺関連行動などにつながることがあり、activation syndromeと呼ばれています)
うつ病でなくとも、現代人はストレスがたまるとお腹空いてもないのに夜中にスナック菓子やらラーメンやら食べちゃうわけですが、これもちょっと平衡状態が崩れた結果のように思えますね。注意しましょう。
仕事や受験など、人生どうしても頑張らないといけないときはあります。しかしその際、自分が頑張れるのはどこまでなのか、自分の限界をきちんと知っておくことが大切です。エネルギー充填120%、一時的にはある程度までは頑張れるでしょう。しかし、一定の線を超えてしまうとゴムが切れてしまい、もとの軌道に戻れなくなります。これが、うつ病をはじめとする精神障害とも言えるでしょう。限界に近づいている時には、体はいろいろなサインを出してきます。疲れるとか頭がぼうとするとかはそのはじまりですよね。そこではまだ回復可能(可逆的)ですが、体が妙に重い、眠れない、食欲がない、本来楽しいはずのことが楽しめない、となってくると黄信号です。うつ病メカニズムが発動してしまうと、回復は可能ですが十分な治療が必要、かつ時間がかかります。体が出すサインに早めに気づき、無理をしないこと...これは自然の摂理に従うことであり、養生の基本です。一度うつ病を経験された方はなおのこと、再発再燃の防止のためにもこうしたサインには常にアンテナを立てておくことが必要です。
頑張るべき時には自分にできる範囲で頑張る。そうでない時は、まあほどほどに、中庸を心がけて生活しましょう。完璧じゃないかもしれないけど、まあこれでいいかぁ、なんくるないさー、ケセラセラ。肩の力を抜いて、バランスの取れた生活がよりよい人生の入り口となりますよ。


ショパンコンクールも佳境に入り、日本人ピアニストもたくさん残っています。わが家の押しは大学の後輩でも医学部の後輩でもなく反田恭平なのですが、誰でもいいから日本人優勝者を見てみたいですね。サッカーあかん分、こっちで頑張ってほしいです!
最後に今日の一曲。すぎやまこういち氏が鬼籍に入られました。氏の遥かなる旅路に敬意を表して、交響組曲ドラゴンクエストⅡから「遥かなる旅路」をBRASS EXCEED TOKYOの演奏でどうぞ。


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