横浜院長のひとりごと No.372 デパケンピンチ!

横浜院長の柏です。ショパンコンクール、柏センセ推しの反田恭平は2位でした。うーん、1位になったブルースより上手いと思ったんだけどなぁ。。。しかし小林愛実さんとのリアルピアノの森、堪能させていただきました。ではここで今日の一曲、反田クンのファイナル、ショパンのピアノ協奏曲第1番をどうぞ。


さてさて、戦後わが国は高度成長を成し遂げ、豊かな国を維持してきました。ほしいものはなんでも、Amazonでポチれば自宅にいても次の日には手に入ります。オイルショックとか大震災とかあると一時的にモノ不足となることはありましたが、日を置かずにいつも解消していたように思います。精神科医療の現場でも、これまで薬が手に入らず困る、なんてことは30年以上このギョーカイにいますが経験ありませんでした。今日のブログは、それが今回ちょっとまずいかも、というお話です。
事の始まりは、福井県のジェネリック(後発薬)メーカー、小林化工が出荷した水虫治療薬(イトリコナゾール)に睡眠薬(リルマザホン)成分が混入し、死亡事故が発生したという事件でした。リルマザホンは先発薬名リスミー、速効性の睡眠導入剤ですからたまりません。絶対に、絶対にあってはならない事件が起きてしまったわけです。こうした後発薬メーカーの製品・品質管理問題はさらに広がりを見せ、大手の日医工でも同様の問題が発覚するなどの事態となり、製造ラインストップやペナリティなどによりジェネリック製品が品薄になり、玉突き的に先発薬も供給不足となりつつある、という困った事態に発展してきています。

精神科領域でも様々な薬に影響が出始めているのですが、現在一番不足が危惧されているのが抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(先発品名デパケン)です。通常剤と徐放剤(一日一回服用でよいもの)があるのですが、昨日徐放剤(デパケンR)の200mgが品切れとなり、100mgに切り替える、と最寄りの薬局から連絡がありました。こうなると100mgの品切れとともにデパケン(以下、一番よく使われる表現としてデパケンと表記)が使えなくなる恐れが現実問題として浮上してきます。
デパケンはもともと抗てんかん薬、すなわちてんかん発作のコントロールのための薬ですが、精神科領域では以下のように実に広い使われ方をします。
・てんかん:全般てんかんの第一選択薬です。
・双極性障害:日本うつ病学会のガイドラインによると、躁病エピソードに単剤で、また抑うつエピソードにはルラシドンと併用、維持療法ではリチウムやルラシドンと併用とされていて、双極性障害の治療においては中心的な役割を果たす薬です。
・鎮静、易怒性・衝動性コントロール:保険適応外とはなりますが、情緒不安定で感情・行動のコントロールが必要な方に対症療法的に使われます。境界性パーソナリティ障害、自閉スペクトラム症から過食症、強迫性障害など、まあ病名に関わらず処方されます。
というわけで、デパケンなくなると患者さんも治療者もとても困るわけです。まあこれまでいろいろと便利にデパケンに頼りすぎていた、といえばたしかにそうなので反省も必要なところですが、まあしかしここはデパケン一時在庫なしの衝撃に備えなくてはなりません。
一番問題となるのはやはりてんかんの場合で、デパケンで発作を抑制している方の場合、全般発作であればイーケプラやエクセグランなどへの置換をはかるしかないと思います。本当は在庫のデパケンはてんかんの人に優先投与したい思いはありますが、現実にはそういう調整は難しいところ。
双極性障害の場合、ガイドライン的にはデパケンはどれも第一選択ではないので、リチウム、非定型抗精神病薬などへの置換となるでしょう。感情コントロールでの対症療法については、病気の種類にもよりますが一時中止やテグレトール、リボトリール、あるいはリスパダールや漢方薬などが候補となります。それぞれ、個別にご相談させていただくことになりますが、なかなか悩ましいところです。


この問題、もともとはジェネリック業界の体質の問題に帰結されるようで、これはこれで困った問題です。国の施策として、年々高騰する医療費削減の一つの切り札として後発薬使用が促されました。同じ薬効を持つものが3割なり安く手に入るであればそれは素晴らしいことですが、それは先発品と同等の品質が保たれている、という前提あってのことです。安かろう悪かろうでは、健康と命を守る薬としては失格なわけです。先発品と後発品は、化学物質としては同じものとなりますが、合成過程や賦形剤(薬の形を整えるために加えるもの)が違い、品質も全く同じとはなりません。日本小児神経学会などは、抗てんかん薬を後発薬に置き換えることについて注意喚起しています。てんかんのように、発作が起きる起きないが目に見てわかるものでは、特に違いが明白になるのでしょう。一方、抗うつ薬や気分安定薬のようにじわじわ効果を発揮する場合、品質の違いはより見抜きにくい可能性があります。このあたり、後発品の認定は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が厳格な審査をしている、と厚労省のHPにはありますが、そもそも後発薬メーカーが出すデータをもとに調査認定しているわけで、ここのところの不祥事の様子を見ているとそのデータ自体の信頼度がどうか、ということにもなるわけです。
私はこれまでは基本的にジェネリック推奨派であり、私自身の薬もほぼジェネリックで調達してきておりますが、こうした事態を受け、皆さんは後発薬を使うか先発薬を使うか、ご自身でよく考えてご判断いただきたいと思います。経験的には、ほとんどの場合は問題ないのですが、たまに後発薬に変えたところが効かなくなったとか変な副作用が出たとかでもとに戻すこともあります。
どこかで「ゴディバの偽物を、3割安いからと言って買いますか?」というツイートか何かを見た記憶があるのですが、まあそういう見方も一理ありそうですね。

さて本日は衆院選選挙。世界中でほぼ唯一賃金が上がっていない=生産性が上がっていない国、日本。このままでは何でも欲しい物が手に入る生活の維持は難しいでしょう。生産性が上がらない中、わずかな富を分配して全員が貧困になるのではなく、教育や産業を興し、渋沢栄一の大河ドラマの如く、皆が豊かになる国を作る人を選ぶことが大切と考えます。ではまた。

補記:デパケンとともに先発薬としてバレリン、セレニカRがあったのですが、いつの間にかバレリンってなくなっているんですね(バルプロ酸ナトリウム「DSP」になったようです)。知らんかった(汗)。かつてはジェネリックもいろいろ個別の名前がついていたのですが、最近は薬剤名+「製薬会社のしるし:DSP、アメル、ヨシトミなど」となってしまってつまらないです。デパケンも、かつてはエピレナートとかバルデケンRとか、バルディオス(ロボットアニメや。知らんのか?主題歌はこちら)を思わせるようなカコイイのがあったんですけどね。

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