横浜院長のひとりごと No.373 ADHD-睡眠障害-薬物依存

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横浜院長の柏です。第8回成人発達障害支援学会出席のため、この週末は滋賀県大津市にある滋賀医科大学にお邪魔していました。今、帰りの新幹線でこれを書いています。滋賀医大は私がアメリカから帰国後の1997年から2000年まで、20世紀最後の3年間を過ごした思い出の職場です。新設医大として、大津市南東部の丘陵地帯に立命館大学、龍谷大学のキャンパスとともに作られた滋賀医大は、SUICAが使えない(焦ったゼ)バスに揺られて到着する丘の上の大学です。まわりの山々は、美しく紅葉が色づいています。群馬県で生まれ育ったワタクシ的は、都会のビルの中の職場よりホンマはこっちがええなぁ、と感傷に浸っておりました。
この学会は、医療のみならず福祉、教育、当事者など様々な立場が情報交換する場として設立されており、今回も当事者発表や大学での学生支援など、興味深いテーマが2日間並んでおりました。私自身はランチョンセミナーで「かくれ発達障害」と題して話させていただきましたが、今日は医療系の2演題について、私の感想を交えてご紹介したいと思います。
東京医科歯科大学(こちらも私の前職ですが)の高橋英彦教授は、「発達障害と睡眠障害」というテーマで話されました。発達障害、とくにADHDが睡眠の問題を抱えていることが多いことは以前より指摘されており、ADHD児の最大70%が、軽度から重度の睡眠問題(就寝時の抵抗感、中途覚醒、日中の眠気)を抱えているとされます。睡眠関連疾患としてナルコレプシー(とくに2型)やレストレスレッグス症候群、睡眠時無呼吸症候群などもADHDとの関連が指摘されています。日中の覚醒維持が難しく眠気が出ることが、ADHDを含む発達障害の病態神経基盤に基づく症状の一つである可能性がありそうなのです。
高橋先生たちのPETを用いた研究(AMED研究)では、ADHDのうち多動衝動性が高いタイプではドーパミントランスポーター(DAT)の密度が高く、不注意が強いタイプではノルアドレナリントランスポーター(NAT)の密度が高いという結果が得られているそうです。ということは多動衝動性タイプではドーパミンが足りず、不注意タイプではノルアドレナリンが足りないことが示唆されます。
治療の方向性を決める根拠となる可能性がある結果ですね。もともと覚醒維持が困難なADHD患者はNATが高い傾向があることが知られているそうで、やはり過眠と不注意はつながっているようです。眠い、ぼうっとしている=覚醒水準が低い場合は不注意になる、というまあ当たり前といえば当たり前のことですが、ADHDの本質としてこの覚醒度の問題がある点はもっと注目されるべきなんでしょうね。コンサータ(メチルフェニデート)は覚せい系物質、小児に用いられるようになったビバンセ(リスデキサンフェタミン)は名前の通りアンフェタミン類似物質で、まあ覚せい剤に近い物質です。これらの物質がADHD症状に効くのは、ごく当然のことなのかも知れません。

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦部長は、「発達障害と薬物依存症」というテーマで話されました。予想されることではありますが、薬物依存症を診ているとADHD様症状を伴う当事者と出会うことが多いそうです。当事者会などで落ち着かず出たり入ったりする人、逆説的な覚せい剤の薬理効果を示す人=シャブを使用中の方が穏やかな人がいる、と。断薬すると攻撃性、衝動性が強く出てしまい、その診断はなかなか難しいが、通常の離脱期間をずっと過ぎているのにそうした症状が続く場合は、ADHDの併存を疑うことになります。子供の頃にコンサータで落ち着いた経験があるが中断してしまい、覚せい剤を始めたところ、コンサータと同じように快適になったというケースも紹介されました。一部の薬物依存症の背景に幼少時のADHD特性があることは認められているが、それは慢性的なドーパミン欠乏状態を解決するためにやっているという直接的効果であるとする研究者と、いやそうではない、コンサータなどの精神刺激薬による治療は後年の薬物依存症の予防になっていないことや、直接の影響を与えているのはADHDではなく素行症(行為障害)であることなどから、これは間接的な効果にとどまる、とする研究者の間でまだ結論は出ていないとのことでした。

一方で、成人薬物依存症でADHDの診断を行うことは極めて困難であると。それは、現在のADHD症状の同定が困難(乱用物質の薬理作用・離脱との鑑別が困難、併存する他の精神障害の症状との鑑別が困難)であること、過去のADHD挿話の同定が困難(崩壊家庭に生育したものが少なくなく、幼少期の客観的な情報を持つ保護者の協力を得にくいこと、少なくない患者が幼少期に虐待体験を受けており、心的外傷関連の症状との鑑別が困難)であることによるのです。このあたりは、最近私が強く感じている、ADHDとトラウマ関連障害との鑑別や併発の検討が大変難しい、という問題とオーバーラップします。
松本先生からは、『成人期ADHDと診断された覚せい剤依存の成人患者に対し、「渇望低減」を目的とした精神刺激薬による薬物療法をすべきなのだろうか?』というお題が出されました。一昔前ならそれはないなぁ、でしたが、現在はアルコール依存は禁酒から節酒へ、また欧米で問題となっているオピオイド依存も、現在の方略はオピオイド断ちではなく、適度なオピオイドをコントロールしつつ投与する方法だそうです。「ダメ、絶対」ではない対策、治療へ。ビバンセなどよりパワフルな精神刺激薬の登場もあり、今後この分野がどうなっていくのかは目が離せないところです。

松本先生からは、コロナ禍でADHDを併発している薬物依存症患者のスリップ(薬に走ってしまうこと)が増えているとのお話もありました。特性からして、家でじっとしているのはつらいところでしょう。また、Stay Homeの功罪として、家庭内が「密」となり息詰まる子どもの問題が臨床場面に事例化(自傷・自殺、市販薬乱用など)との話もありました。もともと問題のある家庭環境では、コロナ禍で家庭内が「密」になるのは大きなストレスでしょう。身につまされる問題だと思います。
ADHD、睡眠・覚醒、そして覚せい剤とつながる今回の学会講演。いろいろ勉強になりました。

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学会理事長の加藤進昌先生は、私の滋賀医大時代の恩師(当時はお互いに発達障害のハの字もありませんでしたが)。現在の尾関教授、藤井准教授も当時の同僚で、今でも個人的にいろいろとお世話になっている関係です。私が住んでいた頃栄えていた西武とパルコがなくなり、当時なかったイオンモールが栄える、という日本の都市の縮図のような大津市でしたが、良い街でした。また、今度はゆっくり遊びに行きたいな。
今日の一曲。マーラー談義はなんどかやりましたが、どうやら動画は2番くらいしか上げていなかったようです。今日は、交響曲第5番から有名な第4楽章(緩徐楽章)アダージェットを、レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニーの演奏でどうぞ。全曲版はこちらから聴けます。ではまた。


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