精神保健福祉便り

精神保健福祉便り No.025 『60歳からの青春』

こんにちは。ハートクリニック横浜のソーシャルワーカーです。
梅雨真っ盛りですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。雨ばかりで嫌だなと思うこともありますが、たまにやってくる晴れ間をより清々しく感じられるのも良いなと思う今日この頃です。
今日は先日NHKで放送された番組について、お話したいと思います。
『60歳からの青春』
主人公は時男さん、63歳。統合失調症を患い、約40年もの間、福島の精神科病院に入院されていました。東日本大震災で避難を余儀なくされ、予期せず病院の外へ出ることになったのです。
“40年”という途方もない時間を、時男さんは病院の中で過ごしてきました。病状は安定し、入院の必要性も薄れていく中、何が彼の退院を妨げていたのか。
みなさんは「社会的入院」という言葉を聞いたことがありますか?入院治療が必要でなくなったにも関わらず、家族もしくは社会に受け皿が無いとの理由で入院を継続せざるを得ない状況のことを指します。時男さんの場合もこの社会的入院に当てはまります。
時男さんが入院された1960年代、日本の精神科医療は激動の時代を経て現在に至ります。そんな時代の流れの中で置き去りにされてしまった時男さんの生活、家族、青春・・・人生。長すぎた入院生活は、社会の中で生活するという希望をどんどん遠ざけてしまいました。時男さん自身も「病院の外は怖い」という思いがあったと言います。震災があったからこそ外へ出るきっかけが巡ってきたというのは、ワーカーとして複雑な思いがします。
残念なことに、時男さんのような境遇の方はまだまだおられます。私が実習に行った精神科病院にも何十年という長期入院の患者さんがいらっしゃいました。でもそんな現実があることを多くの方が知りません。この現状は未だに解決されていない大きな問題なのです。
番組の最後に、コメンテーターの先生が国の責任や人権問題について述べていました。
「時男さんに関係したみんな、国とか行政とかそういう大きなものまで含めて、みんなが彼に頭を下げるというところから始めなければいけないんじゃないでしょうかね。」
精神科ソーシャルワーカーの起源はまさに「権利擁護」にあります。時男さんのような方達の”当たり前の生活を守る”使命があります。今でも地域のソーシャルワーカーは精神科病院をひとつひとつ回って退院できそうな長期入院患者さん達に働きかけを行っています。
「退院してよかった。俺は今は幸せだ。」と話す時男さん。患者としてではなく、一人の生活者として当たり前の生活が送れるために、ワーカーとして何ができるのかを考えていくことへの責任を改めて問われた番組でした。多くの方にこの日本が抱える精神科医療の問題について、知ってもらい、考えてもらえたらと思います。

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