横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.416 クアラルンプール

横浜院長の柏です。今回は、10月13日~15日の間、マレーシアはクアラルンプールで行われたPRCP(pacific rim college of psychiatry; 環太平洋精神科医会議)に参加してきました。今日は、体験記という名のクアラルンプール観光日記(^_^;;にしたいと思います。今回は「環太平洋」の名の通り、太平洋を囲むエリアの国々の精神科医の集う学会です。開催国のマレーシアなど東南アジアの国々、中国、韓国、日本からアメリカ、カナダまで幅広い地域からの参加がありました。

No.414でもお話した通り、私は”The Current State of Clinical Practice and Research on ADHD in Asia”と題したシンポジウムのオーガナイザーとして、現地マラヤ大学のAili Hanim Hashim准教授、昭和大学から英国King’s Collegeに留学中の林若穂先生、女性研究者2名と都合3名にてシンポジウムを行いました(写真はHashim先生とのツーショットです)。小さめの部屋での開催でしたが、立ち見が出るほどの盛況で、日本での学会と同じく、マレーシアでも精神科医の発達障害領域への関心の高さが伺われました。終了後に質問攻めに遭ったのも(予想通り英語で苦戦しましたが…)ありがたい経験でした。

ほかのシンポジウムもいろいろと興味深いものがありました。”Hikikomori”のシンポジウムでは、なんと日本人なし、アメリカのAlan Teoを座長に香港、スペイン、マレーシアの研究者が参加してのもので、世界各国でひきこもり問題がクロースアップされている現状がよく見えました。お隣韓国からは、”Taopsychotherapy”(「道」精神療法)のシンポジウム。これははじめて聞く治療法でしたが、なかなかユニークな治療法のようでした。Tao(道)とは仏教や儒教など東アジア伝統のエッセンスとのことで、道教とは関係ないそうです。心を純粋にし、コンプレックスを取り除き、現実をそのまま受け入れて心を静穏にし、投影されたものを取り除くことで認知の歪みを修正する…我々の知るいろいろな心理療法が組み合わされている印象がありますが、韓国では精神分析派の精神科医が積極的に取り入れているところが興味深いところです。「道」精神療法では、治療者のempathy(共感)とcompassion(慈悲)を重視しており、本人の「核心感情」(=現在まで生き残っている過去の遺物)を解消して「完全な共感」を作り上げ、「天上天下唯我独尊」の域に達することがその治療目標。韓国人が根底に抱えている劣等感を扱っている、という文化的背景があるとのことでした。興味のある方はこちらの論文などをご参照ください。当院提携のこまち臨床心理オフィスでもコンパッション・フォーカスト・セラピーやコンパッション・マインド・トレーニングも集団認知行動療法で取り入れており、東洋ではこのcompassion(慈悲)というのが重要な切り口なのかも知れません。

学会中日は、会場を抜け出して電車に乗り、バトゥの洞窟へ。長い長い階段をサルに狙われながら登った先の洞窟にはヒンドゥー教の寺院があり、中に入ったらなにやら儀式に参加する事態となりました(汗)。

マレーシアでは、国教はイスラム教ですが、さまざまな宗教が信仰されています。イスラム教寺院Masjid Jamekから散歩をはじめ、チャイナタウン方向へ。写真の道教寺院、ヒンズー教寺院などを訪れました。30年余前に、まだマリーナベイサンズもない、マーライオンも先代だったシンガポールを訪れたことがあるのですが、その時一番印象に残ったヒンズー、イスラムなどの雑多なエネルギーでした。その隣国であるマレーシア訪問でも、また強いエネルギーを感じて帰ってきました。

この学会は、次回は2025年に東京で開催されます(PRCP2025)。当院理事長の浅井逸郎が会長を務めますので、われわれも引き続き参画してまいります。当ブログをごらんの精神科医、精神科医療に関わる方々、ぜひ再来年の参加、発表をご検討ください。

11月になっても診察室の空調が冷房だった日もありましたが、いよいよ寒さがやって参りました。日照時間も短くなってきています。みなさんご体調に、そして気分の調子にもお気をつけください。そんな時期の今日の一曲は、紙ふうせん「冬が来る前に」です。いやこれはフォークソングの名曲だよねー。私が高校受験を控えた1977年の曲でしたね。懐かしい。同年はレコード大賞が沢田研二の「勝手にしやがれ」、歌謡曲全盛期でほかにも名曲揃いでしたね。ではまた。

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