横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.415 横浜学会を終えて

横浜院長の柏です。No.414でお知らせしたW学会が終わり、先週は燃え尽き症候群に陥りつつ日々の診療活動に戻っておりました。一週間経ったところで、学会についてまとめていきましょう。

どちらも印象深い学会となりましたが、今日は後半、私自身が大会長をつとめた第10回成人発達障害支援学会のことから書いていきましょう。昨年の岡山大会の前から、きしろメンタルクリニックの木代眞樹先生、同院の秋山裕子事務長と3人でゼロベースから始め、会場決めから演者選定と依頼、当日へむけての準備と目まぐるしい一年を過ごしました。一定以上の規模の学会では通常、プロのコンベンション業者を入れて運営をお願いするものですが、われわれは無謀にも(^_^;自前で全部やるべく事前から当日にかけて動いておりました。いろいろトラブルもあり、神経をすり減らす場面も多々あったのですが、なんとも思い出に残るよい汗をかかせていただいた、というのが素直な感想です。以下、大会長として走り回りながらで学会全部は聴けておりませんので、自分が関わったもの、聴けたものについて印象を書いていきます。

最初の特別講演は私の研修医時代からの恩師、横浜市総合リハビリテーションセンターの清水康夫先生にお願いしました。清水先生はDSMの歴史に伴った神経発達症概念の変遷についてわかりやすく話され、その改訂のたびに下位分類が大きく変動していること、ASD治療自体が親・治療理論・治療テーマ・治療の場・薬物療法など変遷してきていることを呈示されました。そうした歴史的流れの中、連携の重要性、とくに継時的連携(トランジション)と共時的連携(他の専門分野との)の重要性について熱く語られました。三顧の礼でお迎えした私の期待以上の素晴らしいお話で、どなたに聞いても高い評価をいただくことができました。この講演の座長を務められたことは、私にとって思い出深いこととなりました。清水先生ありがとうございました。

横浜市の発達障害者施策については、横浜市発達障害者支援センターの桜井所長にお願いしました。厚労省・西尾氏から国の行政施策、横浜市・大野氏から市の行政施策について説明があった後、PDDサポートセンターグリーンフーォレストの長山大海氏から、市の発達障害者サポートホーム事業についての話がありました。従来の、とくに統合失調症中心に展開されてきたグループホーム事業を発展させ、当事者のアパートでの一人暮らしを目標に、その練習として使われるのがサポートホーム事業です。これは、ただ模擬アパートで生活するというだけではなく、スタッフが発達特性、そして適応行動(生活領域)のアセスメントをこまめに行い、自らが障害特性を理解して自律スキルを身につけられるよう支援するという手厚いシステムです。そして、同じ西区内でいつもお世話になっているガッツ・びーと西の阿部浩之氏、生活支援センター西の永瀬誠氏によって西区内の相談支援体制について説明がありました。私も日頃感じておりますが、市内最小の区である西区の機動力あふれる事業、「みんなの相談窓口」の取り組みから生活体験モデル事業(ミクロ~マクロ)と、わかりやすいお話だったと思います。

学会では一般市民向けの公開講座なるものを毎年行っていますが、今回はニューロダイバーシティ(ND)(No.402参照)をテーマに、NDの伝道師こと村中直人先生、ASDの感覚について研究されている井手正和先生にそれぞれご講演いただき、座長の私も入って総合討論を行いました。村中先生からはニューロユニバーサリティ(みんな同じ)とニューロダイバーシティ(みんな違う)の考え方の違い(後者として捉えるべきこと)、発達障害にとどまらず、定型発達者と言われている人も含めて全員に違いがあること(地球人も宇宙人)、合理的配慮より合理的調整を、などなど大変わかりやすいお話でした。井手先生のお話は、基礎研究者としてのASDに見られる感覚の特徴(時間分解能の違いなど)が中心でしたが、同じ世界に生きていてもその捉え方が異なるという、ニューロダイバーシティの理論付けともいえる話だなと思いながら聴いておりました。

二日目の朝一番は私の会長講演です。横浜市で14年半成人発達障害診療に携わり、その間お世話になってきた地域で活躍されている皆さんとの連携の実際について、そしてずっとメインテーマと考えているASDとADHDの関係性について、現時点での私の考えをまとめてお話させていただきました。

会長講演が終わるとそのまま次のシンポジウムの座長に入りました。「発達障害とスティグマ」というかなりチャレンジングなテーマです。なかなか難しいテーマなのですが、講演いただいた精神科医の野村健介先生、弁護士の浅田眞弓先生、そして自助グループで活躍する当事者であり、大学准教授でもある横道誠さん(ご本人の希望もあり、あえて先生でなく「さん」としております)、お三方によりなかなか充実した内容になったと思います。学会でも今後も考えていかないといけないテーマだと思います。

横浜学会の最後は、発達障害の小児期から成人期への移行(トランジション)について、西部地域療育センター長の岩佐光章先生の座長のもとシンポジウムが行われました。移行が行われる20歳周辺というのは、ちょうど当事者にとって世界が大きく変化する大変な、そして大事な時期に当たります。その大事な時期に主治医、支援者が交代することの意味をしっかりと考え、より安全な移行について考える必要があるなと、聴いていて痛感いたしました。

ほかにも、昨年に引き続いての学会本部企画「親亡き後」のシンポジウム、Kaien鈴木社長による子どもから大人までシームレスな支援の試みについての教育講演、今年はじめてとなった口演や、恒例のポスターでの数々の発表などが行われました。学会後のアンケートでも、内容については大方ご好評いただけたようでホッとしております。来年、当学会は大阪で行われます。成人発達障害支援に関わる方々には、ぜひ参加していただきたいと思います。

次回は、その前週にマレーシア・クアラルンプールで行われたPRCP2023体験記(またの名をクアラルンプール観光日記(^^;))をお届けする予定です。では例によって今日の一曲。フランスのエスプリ、プーランクのピアノ協奏曲嬰ハ短調を、マルーシア・ジェンテのピアノ、ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏でどうぞ。

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