横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.347 ノベルティ

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横浜院長の柏です。相変わらず世の中は新型コロナウイルス感染症一色ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この年令になるといろいろと講演を頼まれることが多いのですが、以前にも書いたように最近は全部web講演会。今週木曜日午後は日本うつ病学会のスポンサードシンポジウムでお話するのですが、福岡の学会なのに東京会場から発信というちょっと悲しい状況です。本当はこの学会は去年3月に予定されていて、その前後の週には出雲と四日市でADHDの講演会が予定されていたのですが、コロナで全部吹き飛んでしまったのでした(泣)。
実行されていたら、太宰府天満宮、出雲大社、伊勢神宮と3週連続でパワースポット巡りをしようと画策していたので、残念無念でございました。おかげで予定よりだいぶパワーダウンしております(^_^;;。
うつ病学会ご参加の先生がいらっしゃいましたら、ぜひご視聴ください。そんなわけで、今週木曜午後は休診(ほかの先生方は通常通りです)とさせていただきますので、ご了解よろしくお願いします。
では今日は肩の力を抜いて、グッズ紹介の回といたします。オイラのtwitterをフォローされている方には既出ばかりですがm(_ _)m。
かつて、製薬会社からわれわれ医師には宣伝目的で、商品名の入ったいろいろなグッズ、ノベルティが配られておりました。研修医の頃、Y製薬(現・Y薬品)からもらった手帳とハンコを愛用していた精神科医は私だけではないはずです。ボールペン、付箋からぬいぐるみまで、かわいいキャラクターからヘンチクリンな奴まで、なかなか楽しめました。O製薬などはお金もってるのか、キティとかポムポムプリンとか(そういえば近くのポムポムプリンカフェ、コロナのあおりか無くなっちゃいましたね)、サンリオ色すごかったです。ここ数年、医療業界と製薬業界との癒着問題が言われるようになり、自主規制が進み基本的にグッズは廃止されるに至りました。透明性を考えれば当然のことではありますが(実際は、なにかもらうことで処方が変わることはまったくないのですが)、かわいいグッズに出会えなくなるのはちょっと悲しいところもあります。今日は、自宅とクリニックで発掘したなつかしのノベルティをいくつかご紹介いたします。
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最初はこれ。第1診察室に、ピカチュウと並んでいる鳥さんを見られた方もいらっしゃると思うのですが、これは「ロナセンバード」なる鳥さんなのです。Kくんのお気に入りでもあるこのロナセンバード、ぬいぐるみだけではなくて二枚目のようにボールペンもあります。ロナセンとはD社の抗精神病薬でありまして、物質名はブロナンセリンで、すでにジェネリックも出ております。
ロナセンはSDA(セロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト)と呼ばれる抗精神病薬のグループの一員で、ドーパミンをしっかり抑えることによって幻覚・妄想を抑えるなどのしっかりした抗精神病作用を示し、一方でセロトニンへの作用により副作用の軽減もできるスグレモノのお薬です。
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実はロナセンバード、頭の形がこの薬理作用を表しているんですね。有名なストール博士の精神薬理学の本に、いろいろな向精神薬の各受容体への作用が図解でまとめられているのですが、残念ながらロナセン(ブロナンセリン)は載っていないので、同じSDAでロナセンに近いルーラン(ペロスピロン)の図を紹介しましょう。
ここでは、三角のドーパミンD2受容体と、四角のセロトニン2A受容体が大きく見えます。ロナセンもこれと同様の受容体作用を持っており、よってロナセンバードのくちばし(黄色、三角)がドーパミンD2受容体、トサカ(赤色、四角)がセロトニン2A受容体なのです。すごいでしょう。
ロナセンはD社がわが国で開発した薬剤で、なので欧米ではあまり使われていないという残念な現象があるのですが、効果・副作用のバランスの取れたよい薬です。最近、貼付剤が発売され、シップみたいに貼るという新たな選択肢が出てきております。D社はさらにSDA開発を進め、SDAにさらにセロトニン7遮断と1A部分作動を併せ持ったラツーダ(ルラシドン)をわが国でも昨年発売しています。こちらは統合失調症、双極性障害(うつ状態)の適応を持ち、副作用が既存薬よりずっと少ない、希望の持てるお薬です。ポムポムプリンのO社はエビリファイ(アリピプラゾール)、レキサルティ(ブレクスピプラゾール)とこちらも革命的な薬物の開発に成功しており、抗精神病薬領域では実はわが国の開発能力は素晴らしいんですよね。
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次はこれ。ハルシオンの、こちらも鳥さんのクリアファイルです。鳥さん人気ですね。ハルシオン(トリアゾラム:ジェネリックあり)はベンゾジアゼピン系(以下、ベンゾ系と略します)、超短時間型の睡眠導入剤です。近年睡眠導入剤は新たな機序のものが次々に発売され、ベンゾ系は第一選択ではなくなっています。とくに米国では、ベンゾ系による依存形成が裁判の格好の対象となったこともあり、相当に使われない状況に変わっています。
わが国でも、学会を中心に適正使用に向けての行動が進められています。安易な使用、漫然とした使用は避けなくてはなりません。ただ、例えばパニック障害の急性期など、ベンゾ系でないと乗り越えるのが困難な状況は、精神科臨床ではしばしば経験されます。睡眠に関しても然りで、どうしてもベンゾ系が必要な方がいらっしゃるのは現実だと思います。ベンゾ系の中で見ると、より短時間型の薬の方が依存を起こしやすいという事実は知られており、超短時間型であるハルシオンは、私の場合は自分からは処方しない(前医が出している場合のみ処方し、可能な限り変薬を試みる)薬の一つです。ベンゾ系の中でもハルシオンは、かつて「青玉」と呼ばれ、六本木界隈などの街頭で売られていたこともあります。「赤玉」ことエリミン(こっちのほうがもっとリスキー)とともに、アルコールと重ねるなどにより「トリップ」しやすい薬として知られており、注意が必要な薬と言えます。エリミンは数年前についに発売中止となり、ホッとしているところです。かつては、初診でエリミン出せや〜的な方がいらしたこともありましたんで(^_^;;。出さなかったけど。ハルシオンは使いようによっては必要なこともあるので難しいところですが、デパス(エチゾラム:ジェネリックあり。これも、私からは出さない薬)とともにとくに慎重さを要する薬なのです。
ところでハルシオンですが、その語源はギリシャ神話、風の神アイオロスの娘ハルキュオネー(ラテン語でHalcyone)から来ています。ハルキュオネーは全能の神ゼウスを怒らせたため夫を船の事故で亡くしてしまい、悲しみから身を投げようとしたところをゼウスの妻ヘーラーが二人をカワセミの姿に変えて、一緒に過ごせるようにしたとされます。ここからカワセミはhalcyon birdと呼ばれ、ハルシオンのマスコットも鳥さんになったというわけですね(カワセミに似てるかというと…うーーん)。
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なお、halcyoneは英語ではalcione(アルシオーネ)、プレアデス星団(すばる)の中で最も明るい星おうし座η星の固有名でもあります。
このことから、スバルでかつて一番尖ってた車の名前となりました。ジウジアーロデザインのすごいやつ。今、某所で教授やってるS先生がかつて乗ってたのが懐かしいですね。
これはルネスタ(エスゾピクロン)のクリアファイルですね。こちらも睡眠導入剤です。ルネスタは、アモバン(ゾピクロン)という非ベンゾ系睡眠導入剤の光学異性体(R体、S体)のうちS体のみを抽出したもので、S体はR体より睡眠作用が強く、苦味が弱いことからより効果的とされています。
まあしかし、臨床実感としてはどっちも苦いのは苦くて、だめな方はまずだめみたいですね。くちびるが夏みかんみたいになる、とかおっしゃった方もあり、ちょっと大変そうです。非ベンゾ系とはいいますが、結局はGABA受容体に働くのでベンゾ系に近い働き方をします。完全な「非ベンゾ系」としては、メラトニン受容体に働くロゼレム(ラメルテオン)、オレキシン受容体に働くベルソムラ(スボレキサント)とデエビゴ(レンボキサント)の3剤があります。
なもので、個人的にはあまりルネスタとアモバンの違いが実感しにくいので、ジェネリックもあるアモバン、というかゾピクロンを処方する方が多いです。ただここで問題になるのが、同様の薬物にも関わらず、アモバンは30日までしか処方できないのにルネスタは90日投与が認められているんですね。なので、長期処方するためにわざわざ薬価の高いルネスタに変えるとか、ちょっと意味不明の事態が起こります。メカニズムは同じなので、ここは厚労省なんとかしてほしいところです(現在睡眠導入剤で長期処方可能なのは、ルネスタ、ロゼレム、ベルソムラと、なぜかもろベンゾ系のベンザリン(ニトラゼパム)です。デエビゴはまだ発売後1年経っていないので現在は14日しか出せませんが、長期処方解禁時には90日になることが期待されます)。
あれー、軽くグッズ紹介のつもりが、なんかお堅い内容になってしまいました…まあ根が真面目ですんでご容赦ください(^_^;;。
…というわけで、ノベルティもらったからといってその薬を出すわけではないのですが、時代の変化でノベルティがなくなることにちょっと寂しさを感じている中年医師のひとりごとでした。
では今日の一曲。先週のあさイチにピアニストの清塚信也が出ていて、録画した妻が見なさい、というので見たのですがなかなかよかった。実はこれまで、ちょっと軽いキャラと思って敬遠していたところがあったのですが、話を聞いてみるとバックグラウンドもしっかりしているし、この時代に音楽を広めようという確固たる意志が頼もしい。そんな彼がずっとチャレンジし続けているという一曲、ショパンのバルカローレ(舟歌)作品60。1846年、ショパン逝去の3年前に書かれており、これより後にはワルツ、マズルカなど数曲しかない、というショパン最晩年、円熟の境地の一曲です。清塚氏本人の演奏は見つからないので、ここではポリーニ、ツィメルマン、キーシン、ホロヴィッツ、アルゲリッチが続けて聴けるという超豪華な動画にしましょう。個人的にはやはりホロヴィッツが別格。ポリーニが対抗、ってところかな。皆さんはどの演奏がお好みでしょうか?ではまた。

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