横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.031 社会不安障害(その2)

横浜院長の柏です。2012年最後のブログになります。4月1日に開始しましたが、意外とご好評(?) いただき、診察室でも読んでますよ〜、など言われることから調子に乗ってしまいここまでたどり着きました。皆様のご愛顧感謝いたします。
さて社会不安障害(SAD)です。人前で何かをする、という状況で極度の緊張・不安に襲われ(心理症状)、体に不調が現れ(身体症状)、そうした状況を回避する(回避症状)病気です。生涯有病率はアメリカ精神医学会によると3-13%と幅がありますが、いずれにせよ高い数字です。日本での正確な調査はまだなされていないようですが、国民性を考えると10%は下らないのではないかと思われます。かつては対人恐怖症と言われ、性格なのである程度は仕方ないと考えられていましたが、医学の進歩とともに現在では治療可能な病気、とくに精神科・心療内科領域では比較的治りやすい病気、という位置づけに変わってきています。
この変化のポイントは2つあります。1つは、原因は性格ではなく、社会場面でのトラウマ体験が引き起こす慢性不安症状であろうということです。患者さんによく話を伺うと、会社の会議で言葉につまった、小学校時代に当てられて答えられず顔が赤くなった、など発端となるエピソードを聞き出すことが出来る場合が多いです。パニック障害がパニック発作を発端とする慢性不安症状であることと、同じメカニズムであろうと考えられます。
もう1つは、上記とも関連しますが、新規抗うつ薬として1999年以降日本でも使用可能となったSSRIの登場があります。この薬は恐怖症性の慢性不安にはかなりの効果が期待できます。SSRI登場以前の薬物療法は抗不安薬が中心でした。これも一定の効果が期待でき、現在でも急性期治療や、SSRIが副作用で使えない場合には有力な治療です。しかし、SSRI登場により治療成績は格段に向上しました。治る病気になってきたということです。治療者としては、抗不安薬がその場の不安にフタをしていく(悪く言うとモグラ叩き的になる)のに対して、SSRIは不安の根っこのところを叩くといった感触を得ています。
このように薬物療法がかなり効果的な病気ですが、それでも不安や回避が強い方に対しては、認知行動療法の併用が有効です。不安・恐怖を引き起こす誤った認知に対する認知療法、回避行動に対する行動療法はいずれも効果が証明されています。当院では、認知行動療法に通じた心理士による認知行動カウンセリング集団認知行動療法も行っています。集団治療には不安を感じると思いますが、薬物療法で一定の改善を得られたがまだ十分でない、という方には最適の治療方法です。主治医とよくご相談下さい。
では皆さんよいお年を。
P.S.1 有病率10%の話ですが、私自身大学生の頃は明らかにSADの診断基準を満たしていたと思います。私は電話を自分からかけるがだめでしたね・・受話器の前で30分くらい固まっていました。今でも基本的に電話は嫌いです。携帯電話も、公衆電話がなくなっちゃったのでやむなく5年前くらいにはじめて買ったし。今のiPhoneはネット端末としては使い倒しですが、電話はかけないから支払いはほとんど基本料金。
P.S.2 抗不安薬ですが、先日の読売新聞の報道のあと使用を不安視する方が増えています。繰り返しますが、現在の薬物は医師の指導のもと使用する分には安全です。この報道にはいろいろ問題があると考えており、いずれここできちんと私見を書きたいと思います。

コメント

  1. まねきねこ より:

    先生も電話をかけるのが苦手だとのこと、心強くなりました。私も、自分から電話をするのは、とても嫌です。義務教育のころ、緊急連絡網で、自分の後ろが必ずと言っていいほど嫌いな子だったり、知らない相手(の場合が多い)の表情や状況が見えない、声だけのはかないモノに信用をおくことが不安だとか、いろいろありますが、結局言い訳に過ぎず、めんどうくさいのだなあと認めました。すご~く認めたくなかったですが。
     精神科医療では、名称が変わることがよくありますが、ノロウイルスに関しては、何度か不適切な呼称であるとの指摘を受けながらも、改善されそうもありません。
     ついでに、先生も電気人間でしたか。刺激のある生活ってそりゃないですよ。人伝に聞いた話で、ダウンジャケットの裏にナイロンの意図を縫い付けると軽減されると知ったので、やってみたら効果がありました。ご参考までに。
     一年間、楽しいブログをありがとうございました。私のほかにもファンがいらっしゃるようで、先生におかれましては、また来年も、いろいろなお話をきかせてください。
    それでは、良いお年を。