横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.336 Two decades

横浜院長の柏です。今週は日本精神神経学会の学術総会のため、私と長尾副院長とそろって週前半お休みをいただき、とくに30日水曜日はクリニック自体休診とさせていただきました。ご迷惑をおかけしましたが、ご了解のほどお願い申し上げます。
その学会発表(ADHDのシンポジウムです)も無事終わりました。オンラインなので観客の顔が見えないのですがリアルタイムでも150名ほどの先生方にご視聴いただきました(オンディマンドもあるので最終的にはもっと見ていただけることを期待)。ディスカッションの30分間、演者の先生方と熱くお話でき、充実した時間を過ごすことができました。そのまま国分町へ呑みに行けなかったのが心残りですが(^_^;。
閑話休題。この9月末、今のわが家に引っ越してきてちょうど20年たったことに気がつきました。それはちょうど滋賀医大から東京医科歯科大に職場を移したときでして、昨日のことのようですがうーんもう二昔になるんですね。
20年経つと精神科医療も大きく様変わりしています。20年前はちょうど西暦2000年ですが、うつ病概念の拡大、ボーダーラインの時代から双極性障害の時代へ、といったトレンドがあった頃かと思います。精神分裂病が統合失調症に呼び名が変わったのが2002年、痴呆が認知症に変わったのが2004年でしたね。私が医科歯科にいたのは2000年から2009年でして、病棟で力を入れていたのは実は摂食障害でした。滋賀で学んだ行動療法、そして麻布の水島広子先生のところで学んだIPT(対人関係療法)も活用していました。そしてこの20年のほぼ後半、2009年以降は当院での実践となるのですが、ここでは成人発達障害診療との出会い、試行錯誤、そして地元のさまざまな支援者の皆さんとの出会いなどがあり今日に至っています。若干37歳と働き盛りだった青年(?)医師もすでに57歳、ベテランといっても誰も文句を言わないであろう年齢になってしまいました。20年後は77歳か…頑張らねば(^_^;。
精神科医療のこの20年の変化として、避けて通れないのが薬物の進化です。次の表に、この20年で発売された主な向精神薬を載せました。抗てんかん薬やADHD治療薬などなど他にもありますが、ここでは主要3分野だけを載せてあります。それぞれ網羅したつもりだけど…抜けがあったら教えて下さいませ。主要商品名だけ書いてありますので、同一他剤やジェネリック名は書いてありませんので誤解なきよう。
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2000年といえば、ちょうど前年に日本初のSSRIであるデプロメール(ルボックス、フルボキサミン)、そして2000年その年にパキシル(パロキセチン)が発売、これまで三環系抗うつ薬が主役だったうつ病治療に革命がおきました。SSRIは2006年のジェイゾロフト(セルトラリン)、2011年のレクサプロ(エスシタロプラム)と続きます。三環系と比べると便秘や口渇などの不快な副作用が少なく、また抗うつ作用は変わらない、というのが触れ込みでしたが、たしかに副作用は少ないものの、抗うつ作用自体は三環系のほうが強いというのが私自身の感覚です。SSRIはむしろ抗不安作用が中心で、二次的に抗うつ作用をもつ、そんなイメージです。しかし、SSRI 4種類それぞれに特徴的な作用があり、そこを考慮して使うと十分に効果的な薬物です。2009年のリフレックス(レメロン、ミルタザピン)はちょっと変わった薬物で、鎮静系の薬物なので眠気が出やすく、また体重が増えることがあるというデメリットはあるのですが、抗不安作用・抗うつ作用ともにしっかりした効果の期待できる薬です。次がSNRIですが、2000年に発売されたトレドミン(ミルナシプラン)は力価が低く限られた方のみの使用となっていますが、2010年のサインバルタ(デュロキセチン)は十分な力価を有し、三環系に最も近い効果が期待できる薬です。2015年のイフェクサー(ベンラファキシン)はSNRIとSSRIの中間的な位置づけとなります。なお、昨年発売されたトリンテリックス(ボルチオキセチン)は、SSRI作用に加えて各種セロトニン受容体への作用を有するという変わり種の薬で、ここまで副作用が少なく効果も期待できる印象です。セロトニン(5HT)受容体のうち、5HT1A受容体の働きを強め(アゴニスト)、5HT7受容体の働きを抑える(アンタゴニスト)という特性がありますが、実はこれらの特性は、こちらも最近発売になった抗精神病薬のラツーダと共通しています。ラツーダもユニークな特性をもち、最初から統合失調症と双極性障害(うつ状態)の両疾患の保険適応を取っています。とくに5HT7受容体に作用する薬物はこれまでなかったので、両薬物ともにこれまで治療が難しかった方の福音になればよいな、と期待しています。
おっと、ほとんど抗うつ薬の歴史を追うだけで時間切れですねー。ほかについては、またいずれ書くことにしましょう。
今日の一曲、ビゼー作曲無言歌「ラインの歌」を幻の名ピアニスト、マリア・グリンベルクの演奏でどうぞ。第1曲「暁」はNHK-FM「クラシック・カフェ」のオープニングテーマでもあります。「クラシック・カフェ」といえば、司会のおひとり、粕谷紘世さん。以前、講演会でインタビュアーをお願いしたことがあり、放送のたびに素敵な笑顔を思い出しております(*^_^*)。ではまた。

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