横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.369 発達障害とかけ算

横浜院長の柏です。仮面ライダーリバイス、始まりましたな。死神博士から始まる悪の天才科学者マニアの私としては、今回は正義側(フェニックス)に来ちゃったけど狩崎博士に期待ですかね。鎧武の戦極凌馬博士のような役回りを期待しまーす。
さてさて、本格的にブログ書く暇がない。毎日更新してる先生とか、どういう時間の使い方してるんですかねー(謎)。今も、一週間後に迫った精神神経学会のパワポ作り(サーセン京都に呼ばれているので来週火曜は休診にします)、水曜夜の講演会のパワポ見直し、月末〆切の原稿書き(これかなりヤヴァい)とあるのにさらに来月の予定も入ってきて、すっかりあっぷあっぷ状態でございます。ブログはマターリ更新していきますので、懲りずにおつきあい下さいませm(_ _)m
さてさて、診察室で患者さんのおっしゃる言葉に「おおっ!」と唸ることがよくあるのですが、最近考えさせられたのはこれ。
「私は、つらいことがかけ算になるんです。」
まだ若い、発達障害を抱えた方の一言です。うーん、なんとも絶妙の表現ですね。通常、つらいことが重なることがあってもそれは「たし算」ですよね。それが「かけ算」になるというのは大変なことです。
発達特性に基づく困りごとというのは、生活や仕事のいろいろな場面で日常的に発生してきます。そしてその多くは、連続的・複合的に起きてくることが多いものです。例えば、仕事で電話を受ける場面を考えてみましょう。自閉スペクトラム特性のある方ですと、「聞き取りが苦手(聴覚刺激に弱い)」「同時並行作業が苦手」「コミュニケーションが苦手(相手の意図を汲み取るのが苦手、自分の意志を伝えるのが苦手)」といった複数の苦手を抱えていることがごく普通にあります。いざ職場の電話を取ったのはいいが、まず「聞き取りが苦手」:とくに電話ではわずかな雑音が大きく聞こえて肝心の声が聞き取りにくい、電話による音質変化でますます聞き取れない、といったことが生じ、「相手の意図を汲み取るのが苦手」:相手の話し言葉から内容を汲み取れない、相手の話の要点・イイタイコトを理解できない、さらには「同時並行作業が苦手」なので電話で聞きながら話す、メモを取るということができない、と困りごとが重なっていきます。そして、うまくいかなかったことを上司に伝える時にも「自分の意志を伝えるのが苦手」…といった具合で、このように一つの場面を抽出しただけでも困りごとの連鎖、蓄積が見られるわけですね。
一つ一つの困りごとがまた次の困りごとを生み、さらに複雑にしていく…という意味で、彼ら・彼女らの場合、困りごとは「たし算」というよりも「かけ算」の形で積み重なっていくことになるわけです。


こちらは、フォローさせていただいている精神科医YoKuKuu先生(@YuKou_KYou_KoKo)の秀逸なツイートです(ご本人の許可のもと転載)。わかる人はすごくわかるのではないでしょうか。先生は一臨床医の主観的なイメージに過ぎないとおっしゃっていますが、エビデンスに基づくデータよりもこういった直感のほうが臨床では役に立つと私は思うんですよね。
グラフでわかるように、負担や環境の苦手さが増した場合、しんどさ・やりづらさは増えた分だけ増すというよりは、増えた分の二乗くらいの感じでぐーんと増えてしまうというのです。倍々ゲームですよね。さきほどの困りごとの「かけ算」を図式化したものといってもいいものと思います。
発達障害を抱えた方の場合、幼少から①特性のため、普通に暮らしているだけでも疲れやすい(知覚過敏、対人ストレス、こだわりなどの特性による)②少数派であり、周囲から変わっていると見なされやすい、あるいは失敗の連続などのため周囲から距離を置かれやすく、虐待・ネグレクト・いじめなどの対象となることもある、というように二重の困難に遭遇する可能性があります。こうした経過の中、困りごと・しんどさが「かけ算」になっていくのも無理ないところかと考えます。
発達障害の「治療」とは、本人が自らの特性を知り、困りごとを少しでも減らしていく工夫を重ねていく作業そのものです。かけ算で、二次曲線で増えていくのであれば、工夫によって苦手さを少し減らす(グラフの横軸の要素を減らす)だけでも、こんどは困りごとの方が二次曲線的にぐーんと減る可能性もあるわけです。新型コロナの陽性患者数が急激に増えたが、対策を打つことにより急激に減っている現状が連想されますね。かけ算はつらいところですが、このように治る上ではメリットでもありえます。このぐーんとよくなる流れにきちんと乗れるように、あきらめず、しっかりと治療していきましょう。
久々の今日の一曲、フランスの女流作曲家セシル・シャミナードによるピアノの小品からアラベスク作品61をダニエル・ラヴェルのピアノでどうぞ。ではまた。
P.S. 「イイタイコト」って書いたら浪人時代、駿台・藤田師の現代国語の授業を突然思い出した。懐かしいな。

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