横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.375 季節性感情障害

横浜院長の柏です。今年も、朝の通勤時にフロントガラスからの朝日が眩しく、サンバイザーを使う季節がやってきました。もうすぐ昼が一番短い冬至を迎えますが、一番日の出が遅いのは実は冬至ではなく今くらい(12月上旬)なんですね。いよいよ寒さも本番になってきますね。
さて、みなさんそれぞれ好きな季節、嫌いな季節があると思うのですが、中には好き嫌いを超えて苦手な季節…調子を崩しやすい季節…を持つ方があります。単純に気候の関係で夏がだめ、冬がだめ、という方、台風や梅雨など気圧変化の強い時期がだめという方(これは季節というよりは気圧が原因で、「気象病」として随分昔ですがNo.045でご紹介しています。お役立ちアプリ「頭痛〜る」のご紹介も)。そんな中、秋から冬に向かうこの季節、実際には10月〜12月の間頃に気分がふっと下がってしまう方があります。こうした方は、冬真っ盛りの1月〜3月は意外とそこまで調子が悪くなかったりして、どうもただ寒いのがだめというわけでもないようです。ここまでの研究で、こうした方々〜季節性感情障害〜の方々の弱点は、気温の低下よりも日照時間の減少が関係していることがわかってきています。光が足りなくなってくると、元気が出なくなるのです。
冬は自然界にとって過酷な季節です。木々は枯れ、雪に覆われた世界は死の世界。木の実や草などを失った草食動物、その草食動物を食べる肉食動物、どちらも活動するための食糧、エネルギーを失うのが冬です。そのため、多くの動物は冬の間は活動を控え、一部の動物は冬眠という方法を取って極端に代謝を落とすことでこの過酷な季節を乗り切る戦術を取ります。逆にエネルギーに溢れた夏には活動量を最大限にして、十分な獲物を捕食してその生命を謳歌します。夏に元気で、冬に元気がない、というのは、そうした意味で生物学的には極めて合理的とも言えるのです。
季節性感情障害の方は、そうした動物としての本能がとくに強い人達なのかも知れません。現代は飽食の時代で、先進国にいれば冬でも食べ物に困ることはまずありません。しかし、過酷な自然環境や、それこそ氷河期など食糧が不十分な時代であればむしろ生き残る力の強い人たちかも知れません。糖尿病が、現代では病気ですが、氷河期などではむしろ低栄養でも血糖値を保てるために生き残る力が強いという説があるのと同様の説明ができるように思います。
そうはいっても、現代ではこれは大きな困りごとです。秋〜冬になると毎年調子を崩していては仕事にも生活にも関わりますし、受験生などこれからが本番ですからね。なんとかしなくてはなりません。季節性「感情障害」と呼ぶからには、基本的にはうつ病の診断基準を満たしている状態のはずです。一部には、夏に逆に躁状態〜軽躁状態を呈する双極性障害の方もあります。治療としては、まずはうつ病、あるいは双極性障害の診断基準を満たしているのであれば標準的な治療をまずは試みるべきです。うつ病であれば十分な抗うつ薬、双極性障害であれば気分安定薬。十分な休養を確保する、規則的生活を維持するなどの基本的な生活指導も変わりません。その上で、季節性感情障害ならではの治療について考えてみましょう。
以前より、わが国では季節性感情障害は日本海側で発症が多いことが知られています。かつては気温との関係が考えられていたのですが、現代ではむしろ前述のように日照時間と関係が深いことがわかってきています。日本海側では、冬になるとどよーんとした雲に覆われ、なかなか太陽を見ることも少ない地方が多いと聞きます。われらが横浜市、そして神奈川県を含む関東南部は冬でも降雪量が少なく、晴れの日が圧倒的に多いですが、実はそれは日本の中でもかなり恵まれたことなのです。季節性感情障害の方では、光の量が足りなくなると十分なエネルギーを作り出すことができなくなり、うつ状態に陥ります。
この場合のうつ状態は、No.130でご説明した非定型うつ病のパターンを取ることが多い(定型うつ病パターンもあります)ことが知られています。過眠、過食、そして体が鉛のようにダルい、というタイプですね。冬眠する動物もまあこれは大規模な過眠と言えるでしょうし、冬眠前の動物は過食に走るわけですよね。生物学的なメカニズムを感じさせます。
そんなわけで、この「光不足型うつ病」と呼んでもいいであろうこのタイプの治療には、できるだけ光にあたることが肝要となります。患者さんにも診察室でいつも申し上げていることですが、朝になったらカーテンを開けよう(とくに遮光カーテンは必ず開けましょう)、日向ぼっこをしよう、散歩をしよう、といった具合に少しでもお日様にあたる工夫をしましょう。できれば朝一番、少なくとも午前中に30分程度散歩などできると大変いいですよね。運動もできて一石二鳥です。コロナ禍で外出が憚られることもあるでしょうが、散歩はぜひ習慣化してほしいところです。
治療方法として高照度光療法というものがあります。何千ルクスとかの強い光を朝の決まった時間に浴びる、というもので、かつて私が勤めていた滋賀医科大学病院の精神科病棟では、当時は天井に協力な光源が並べられた光療法室というのがあって、朝になると看護師さんに誘導された患者さんが一定時間をそこで過ごす、ということをやっておりました。今では通販でも簡易的な機械が購入できるようですが、まあしかし太陽系最大の光源である太陽そのものを使うのが一番安上がりかつ一番効果が高いことは忘れないようにしましょう。
さてさて、太陽光線が足りなくなると元気がなくなる、といえば連想されるものは何ですか?えっ、わからないんですか?だめだなー。光り輝く太陽電池のキカイダー01に決まってるじゃないですか(^o^)。
というわけで、今日の一曲は久々の特撮バージョン、キカイダー01のオープニングです。いやーこの曲のワクワク感はすごいなぁ。さすがの天才渡辺宙明先生の真骨頂です。ちなみに私はハカイダー部隊の大ファンでした。ではまた。

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