横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.055 双極スペクトラム その2

横浜院長の柏です。国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部(長い!)から、女性の統合失調症とうつ病とをMRIで鑑別する方法を開発したとの報告がありましたね。ブログNo.007で紹介したNIRS同様、今後が期待されますね。疾病研究第三部、略称「さんぶ」はその昔私が研究生活をスタートした場所でもあります。なつかしいですね。旧さんぶの皆さん、お元気でしょうか?
さて今日は前回に続いて、双極スペクトラムについてお話しします。前回のアキスカルに続いてガミーの考え方をご紹介するつもりでいたのですが、その前に、双極スペクトラムの考え方の出発点、そして現在の到達点について改めてお話ししておきましょう。
病気にはいろいろなものがあり、診断がつけやすいものからつけにくいものまで様々です。骨折はレントゲンで、インフルエンザは検査キットですぐに診断がつきますが、例えば膠原病では様々な検査をして、病歴を子細に聴取してようやく専門医が診断をつけることになります。精神科・心療内科領域でも、症状がはっきりしているパニック障害、神経性食思不振症などは比較的容易に診断がつきますが、例えば双極性障害や発達障害などでは、診断をつけにくいケースが一定数あります。この診断をつけにくい、というのには二つの要素があります。過少診断リスク過剰診断リスクです。過少診断リスクとは、病気があるのに見逃してしまうリスク。過剰診断リスクとは、逆にその病気ではないものをその病気と診断してしまうリスクです。この二つは方向としては逆ですが、よくわかっていない病気ほどこれらのリスクは高まり、医学が進み診断技術が上れば低くなる、というのはおわかりいただけるかと思います。
多くの場合、まずは過少診断リスクが表面化します。そして「双極性障害はこんなに見逃されている!」という啓蒙活動がなされます。こうした活動の中心となったがアキスカル、ガミーら双極スペクトラムの研究者でした。しかしアメリカではそのために小児双極性障害と診断される子どもの数が急増するような事態となり、現在は過剰診断リスクが議論になっています。
過少診断では必要な投薬や治療が受けられず、改善するものも改善しない方が出てしまう反面、過剰診断では必要のない薬の服用、正しく診断されないことでの治療の遷延化などが起こり、どちらにしても患者さんのためにはなりません。
このように、双極スペクトラムの考え方は、過少診断をなくすことを出発点にしていますが、現在はむしろ過剰診断との狭間で、適切な診断技術の確立が急がれているといったところです。今後はMRIやNIRS、その他最新鋭の医学技術の進歩が、必ずそれを実現してくれることでしょう。
スペクトラムというのはそもそも連続体を意味しており、正常との境界、他の病気との境界がはっきりしないからこそ使う用語です。双極スペクトラムにしても自閉症スペクトラムにしても、双極性障害や発達障害の診断の難しさを表している用語と言えましょう。我々ハートクリニックの医師も、現在の医学の到達点に沿って、少しでも診断、治療の精度を高めていくことを肝に念じております。

コメント

  1. 隊長 より:

    96年に初めて精神科を受診した際、落ち込みだけでした。
    10年後、躁も入っていると理事長のお言葉。
    ああ、治りにくいんだ。と。
    最初のは過少診断だったのかなと思います。
    うまく見つけるいい方法が確立されるといいですね。

  2. まねきねこ より:

    先週書きこんだ、難しいという言葉は、少し語弊があったと思います。専門用語や専門性があっても、それが即難解ということにはならないと思います。隊長さんが使っていた、細かいという言葉が適切だと思いました。
     例の動画、遅ればせながら見ました。CGのない時代、ここまで撮れたのかと思う一方、現在はむしろ、CG頼みになってしまって、かえって何かを失ったのでは?と思いますね。

  3. 横浜院長 より:

    隊長さん
    双極性障害の診断がつくまで、平均10年弱という統計もあります。うまく気分の波を乗りこなせるようになりたいですね。
    まねきねこさん
    そうなんです!たしかにハリウッドのCGはすごいんですが、この時代の日本特撮にあってハリウッドにないもの、それが一番大切だと思っております。