横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.056 双極スペクトラム その3

横浜院長の柏です。双極スペクトラムのお話、今日はNassir Ghaemi(ガミー)の考え方をご紹介します。ガミーらは、従来の診断基準ではうつ病と診断され双極性障害とは診断されない方の中に、双極性障害の要素を含み、うつ病としての従来の治療ではなかなか治らない一群を見いだし、それを双極スペクトラム障害(bipolar spectrum disorder; BSD)として定義し、その特徴を抽出しました。ガミーらの提唱するBSDの診断基準は以下の通りです(Ghaemi et al., The bipolar spectrum and the antidepressant view of the world. J Psychiatric Practice 7: 287, 2001.)。

双極スペクトラム障害(ガミー)

A. 大うつ病エピソード
B. 自生的な(軽)躁病の欠如
C. 1項目+Dの2項目以上、あるいは2項目+Dの1項目
 ・第一度親族に双極性障害の家族歴
 ・抗うつ薬によって誘発された躁病ないし軽躁病
D. C項目が存在しなければ、以下の6項目以上
 ・発揚パーソナリティ(ベースライン、抑うつ状態にない時)
 ・3回を超える大うつ病エピソードの反復
 ・短期大うつ病エピソード(平均3ヶ月未満)
 ・非定型うつ病症状(気分の反応性、鉛様麻痺、過眠、過食)
 ・精神病性大うつ病エピソード
 ・早期発症の大うつ病エピソード(25歳未満)
 ・産後うつ病
 ・抗うつ薬の”wear off”(効果減弱)
 ・3種類以上の抗うつ薬への無反応

このように診断項目を並べ、必要な基準を満たした場合に診断をつけるやり方を操作診断といいます。本来、DSM-5の双極性障害の操作診断基準からお話しするべきでしょうが、あえてBSDから始めます。操作診断基準ではA〜Dのすべてを満たすこと、というのが通常なのですが、BSDのものはちょっと変わっておりまして、AとBは必須ですが、C,DについてはC1個+D2個、C2個+D1個またはC0個+D6個、といった変則的な基準となっています。

おそらく臨床医の多くが実感として感じていることがこの中にあります。家族歴(精神疾患の中では、双極性障害は生物学的素因が大きく、家族内に多発する傾向があります)があること、抗うつ薬で容易に躁転すること、非定型症状、さっと治るが繰り返す・・・こうした我々が「勘」としてとらえている特徴をうまくまとめています。こうした特徴がある場合、通常の抗うつ薬中心の治療では一筋縄ではいかないことが多いものです。ただ、D項目6個以上というのはなかなか厳しい気もしますが・・・。非定型うつ病症状など、ちょっと難しい内容もありましたが、追って解説してきますのでご了解いただければと存じます。

hitori56-a.jpg(Stahl’s Essential Psychopharmacology: Neuroscientific Basis and Practical Applications 3rd ed. より)

このように双極スペクトラム障害の考え方を取り入れますと、Stahlによると図のように気分障害のうち半分くらいは双極スペクトラム圏内ということになるようです。こうなると今度は過剰診断が問題となってくるわけで、なかなか難しいところであります。ともあれ、うつ病としての治療を受けておられてなかなかよくならない方で、上のBSDの診断基準を見て「おや?」と思われる方は、ぜひ主治医にご相談くださいね。

次回はさらにガミーの話を続けます。脱線しなければですが(笑)。

コメント

  1. 隊長 より:

    なんかすごい分類の仕方ですね。
    6種類すべて、というのがなんとも。
    10日に診察なので、ちょっと理事長に聞いてみます。