横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.300 精神科医といふもの

横浜院長の柏です。開院3周年当日、今から遡ること7年半前、2012年4月1日に開始したこのブログですが、今回をもって300回目を数えることができました。診察のたびに担当患者さんに読んでますよ〜と言われ、また外部の方にお会いするとここで私のことを知られた方もあるなど、私にとっても大切なものとなっておりますので、なかなか感無量であります。このペースでいくと1000回目を迎えるのは今から18年後の2037年、そのためには74歳まで続けなくてはならず、なんとか元気でそこまで…行けるのか??
さてその記念すべき回のテーマとして、精神科医という仕事の醍醐味について書いてみたいと思います。医師になって31年4ヶ月、私の時代は今のような全科を回る研修システムではなく、最初から精神科専門で入りましたので、精神科医としても同じ年月を経ています(厳密にいいますと、アメリカにいた2年半は臨床をやっておりませんので29年くらいでしょうか)。これまでどれくらいの数の方々の診察にあたったのか、どれくらいの数の面接をこなしたのか、想像もつかないところまで来てしまいました。10年半前、当院に赴任してからだけでも、数千名の患者さんの診察にあたり、現在も引き続き数百人の患者さんを担当させていただいております。このまま行けば、私は一生の間に一万人くらいの方と診察室でお会いすることになるのではないか、と推察されます。
精神科医の仕事の醍醐味はいろいろありますが、その第一は、いろいろな方にお会いしてその各々の人生を見せていただき、その機微にふれることができること、そしてさらにはその方々の人生において、しばらくの間(といっても、それなりの年月になることも)伴走させていただくことができること、これだと思います(個人的には「伴奏」と書きたかったですが、実際はやはり「伴走」ですかね)。
人間一人、長くとも百年足らずの人生で経験できることは限りがあります。書物や映像、ブログなどで他人の人生をのぞくことは誰でもできるでしょうが、当人と面と向かって、こころの底にあるものを打ち明けていただけること…ある意味、親兄弟や親友にもできない内面を吐露いただけること…これは誰にでも、どの職種の人にもできる、ということではないでしょう。一人ひとりの患者さんには、それぞれの物語があります。社長さん、小学生、90歳を越えたご老人、中には、どうしてこんな…とこちらがびっくりしてしまうような数奇な人生を辿っている方もありますし、伴走させていただいている間にびっくりするような出来事が起こることもあります。自分一人で経験できることには限りがありますが、いろいろな人生を見聞きできることは自分の人生を豊かにすることができますし、またそこから出てくる滋養を患者さんたちに還元していくことこそ、精神科医の醍醐味の最たるものかも知れません。
ある意味、酸いも甘いも噛み分けた銀座のクラブのママさんが精神科医の一つのゴール…と言ったらママさんに怒られちゃうでしょうか(笑)。
もちろん、精神科医の仕事は人生談を語ることではありませんが、これまで出会い、回復されてきた患者さんと出会った経験は、次の患者さんとの出会いに活かすことができます。うまくいかなかったケースの反省も含め、日々是精進です。ただ、銀座のママさんと違うのは、精神科医は人間だけを相手にするのではなく、医師ですから当然のこととして、病気を相手にしています。あくまでも「脳の病気」のプロとして、病気を診断、評価して治療するのが精神科医の本業です。脳科学の進歩は加速度的。遅れを取らないよう、こちらも日々研鑽が必要です。「脳の病気」としての科学者としてのおつきあいと、「こころの病気」としての人と人とのおつきあい。ここのバランスをうまくとるのがなかなか難しいのですが、これを絶妙に行うことができるのが一流の精神科医なのです。ここが精神科医の一番の醍醐味かな…おっと、「一番の醍醐味」が何個あるんだ!(^_^;という話ですが、それくらい奥の深い仕事なのです。ここをご覧の医学生、研修医の皆さん(そんな人いないか(汗))、専門科はぜひ精神科を、精神科をどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
では今日の一曲。300回記念をどの曲で飾ろうか、いろいろ考えたのですが、子供の頃大好きだったこの曲にしましょう。ショパン作曲の幻想即興曲(即興曲第4番嬰ハ短調作品66遺作)です。ショパンの遺作といえば、No.119でご紹介した(ヴァイオリン編曲版ですが)ノクターン(夜想曲)第20番がありますが、どちらもこの「嬰」ハ短調というところがいいんですよね。あ、ノクターンはピアノ原曲版もご紹介しなくては、ですね。今日は、ピアノを2000年のショパンコンクール覇者のユンディ・リでどうぞ。


N先生も無事ご復帰され、クリニックも通常運転に戻っております。学会や講演会も続き多忙な日々が続きますが、伴走の日々を今後も続けていく所存です。当院および当ブログを引き続きご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

コメント

  1. 名無しの権兵衛 より:

    300回投稿達成、おめでとうございます。
    先生のブログで病気のことを学んでおります。
    病気とオタクネタを繋げていただくと、オタクな私にとって「はっ!」とした気付きを得ることができます。個人的には、「アゴラフォビア」の回がお気に入りです。
    これからも先生の投稿を楽しみにしています。

  2. 音楽大好き より:

    先生のコラムを読ませていただいて、精神科医の醍醐味ってそういうことだったのかと気づきました。診察室の独特の時間、空間のなかで、とても普通はお話ししていただけないような深い意味のあるお話をうかがっているんですね。診察の限られた時間のなかで深いお話ができても、診察室から退出していただくときには後をひかないような診察の終わり方ができるというのが、銀座のママという例え話で先生がおっしゃっておられるんだと理解できました。ありがとうございました。

  3. 横浜院長 より:

    皆さんコメントありがとうございます。励みになります。
    権兵衛さん
    アゴラフォビアの回といえば、ドラクエ流不安解消術でしたね。今後も病気とオタネタでがんばりますので、応援よろしくお願いします!
    音楽大好きさん
    コメントありがとうございます。
    もちろん毎回深いお話を伺ってたら時間がないのですが、重要なタイミングではじっくりお話ができれば…といってもママさんのように時間はとれないですが…と思うのです。前の順番の方が時間がかかっている時は、そうした話をしている時かも知れません。まったりとお待ちいただければと存じます。