横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.014 パニック障害(その1)

横浜院長の柏です。
ついに梅雨明けですね。暑い毎日ですが元気に乗り越えましょう!
こうした暑い日、いつものように通勤電車に乗っていると、むわんとした空気を感じ、何となく空気が薄い、息がしにくい。そのうちに汗が吹き出し、胸がドキドキと苦しく、手足が震えてくる。このまま死んでしまうのではないかという、これまで経験したことのない強烈な不安に襲われ、いてもたってもいられない。次の駅で途中下車、駅員を呼び駅員室で休むも症状は続き、救急車で救急病院へ運ばれた。しかし病院に到着した頃には症状は落ち着いており、心電図や血液検査でも異常なし。医師からは、異常は見つからないし、もう症状も治まっているようだからお帰り下さい、と告げられたが、本当に大丈夫なのか不安を抱えたまま帰宅した・・・。
これが典型的なパニック発作の例です。精神症状としての強烈な不安・恐怖に加えて、身体症状(自律神経症状)として動悸・胸痛、呼吸困難・窒息感、発汗、震え、しびれ、めまいなどが一気に出現し、数十分程度続きます。この不安は本当に強烈なもので、日常生活で普通に見られる不安とは質的に全く異なるもののようです。このまま気が狂ってしまうのではないか、このまま死んでしまうのではないか、といった自分の存亡に関わる重大な不安を呈します。
こうしたパニック発作を繰り返すことでさらに不安が強まり、不安が不安を呼ぶ状態になる病気をパニック障害と呼びます。診断基準はこちらのページをご参照下さい。パニック障害の状態となると、「また発作が起こるのではないか」という予期不安が出現し、パニック発作の急性・一過性の不安だけではなくてより慢性・持続性に近い不安も重なってきます。その結果、元来積極的だった人が交際を避けるようになったり、会社をやめたりすることもあります(行動の変化)。また、電車の中や映画館、エレベーターなど「その場から逃げ出せない」という気持ちを抱いてしまう場所を避けたり、行けなくなったりする(広場恐怖)ことや、一人でいられず家族や友人を巻き込むこともあります。
さらにパニック発作がコントロールされず繰り返された場合、慢性・持続的な不安から全般性不安障害をきたしたり、持続する不安・緊張からエネルギーの低下をきたしうつ病を合併することもあります。また、あまりにパニック発作が強烈であった場合、発作自体をトラウマとして心的外傷後ストレス傷害(PTSD)に近い状態となり日常生活に大きな支障をきたすケースもあります。
パニック発作は治療によりコントロール可能であり、パニック障害は治る病気です。心療内科に限らず、あらゆる病気は早期発見早期治療が大切ですが、不安に関わる病気ではとくにその点が大切だと思っています。パニック発作が起きてしまった場合、少しでも早く心療内科で治療を開始されることをお薦めします。しかし、時間がたってしまっても決して手遅れということはありません。パニック発作をコントロールし、二次的な不安や抑うつについて丁寧に治療を行っていくことで充分に治療可能です。治療については次回にお話しします。
パニック障害という病名は、私が研修医の頃にはまだ日本に入っておらず、全般性不安障害などとともに「不安神経症」という大まかな括りでした。現在はパニック障害の疾病概念が確立し、治療法としてもSSRIなどの新規抗うつ薬や認知行動療法などの導入があり「治る病気」に変わってきているのです。
最近ではパニック発作で訪れた救急外来で、心療内科受診を指示されることが増えているようですが、いまだに何でもないよ、と帰してしまう救急医もいます。まだまだ啓蒙活動を進めていく必要がありそうです。

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