横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.071 抗てんかん薬 その3

横浜院長の柏です。特急りょうもう号の中で書いております。双極性障害の治療に使われる抗てんかん薬、今日は各論です。バルプロ酸ナトリウム(デパケン、セレニカ)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)、クロナゼパム※(リボトリール、ランドセン)についてお話ししましょう(カッコ内は代表的な商品名。※は保険適応外)。エビデンスを基本としつつも、かなり主観を交えますので悪しからずです。
1. バルプロ酸ナトリウム
リチウムとともに、伝統的に双極性障害の治療薬の双璧をなすお薬です。リーマスが比較的ナチュラルに気分を安定させるのに対して、ガチッと気分を固定する印象があります。主に躁状態、軽躁状態の鎮静化、混合状態や急速交代型の治療に用いられます。現在あるうつを持ち上げる効果は強くありません。混合状態、急速交代型といったゆれの早く細かい、不安定な平衡状態には第一選択です。
2. カルバマゼピン
医局の大先輩である大熊輝雄先生が、はじめて双極性障害への治療効果を報告されたお薬です。これは日本発の誇るべき成果です。大熊先生といえば、精神科医みんなが読んでる教科書「現代臨床精神医学」の単独著者であり、精神医学のあらゆる領域に精通された巨人でした。あの分厚い本に網羅された知識の宝庫は今でも私の基本であります。先生は時代とともに旺盛に改訂を重ねられ、私も第3版、8版、12版を所持しております。その大熊先生も鬼籍に入られ、12版は我々医局の後輩の共同作業として改訂を行い、私も不肖ながら一部に参画させていただいております。一部改訂するだけでも大変な作業で、大熊先生の偉人ぶりを実感するに十分でした。閑話休題、カルバマゼピンですがこれは不思議な薬で、部分てんかんの代表的治療薬であるとともに、統合失調症の興奮状態、双極性障害の躁状態、さらには三叉神経痛と幅広く適応があります。適応からお分かりのように「上から下へ」のベクトルに優れたお薬です。非常に切れ味のよい優れたお薬ですが、まれに重大な皮膚症状の副作用を引き起こすこともあり、最近は使われることが少ないようです。バルプロ酸以上にガチガチッと気分を固定化する作用に優れ、境界性パーソナリティ障害や素行障害など、行動上の問題の強い方にも効果が期待できます(保険適応外)。また、経験的にはこれなしでは気分変動がコントロールしにくい方が一部あり、双極性障害治療薬の選択肢としては欠かせないと考えています。
3. ラモトリギン
国内発売後5年の新参者ですが、他のものとはかなり毛色が異なります。他のものが躁状態や混合状態などの「気分が暴れている」方に効果があるのに対して、これはうつを持ち上げる作用に優れます。気分調整薬の中で抗うつ作用がしっかりと認められるのは、リチウムとラモトリギンだけでしょう。そもそも双極性障害の方の長期経過を見ると、うつ状態の時期が長いことが知られており、クリニックにいらっしゃる双極性障害の方々も、うつ状態で苦しんでおられることが多いのが現状です。その意味で画期的なお薬といえ、実際これが切り札となった方も多数いらっしゃいます。再発予防の効果も期待されます。カルバマゼピン同様、まれに重大な皮膚症状の副作用を起こすことがあり注意が必要です。
4. クロナゼパム
保険適応はありませんが、気分安定化効果があります。保険適応はてんかんのみですが、元来ベンゾジアゼピン系の薬物であり、抗不安薬、睡眠導入剤と近い系統にあります。抗けいれん作用が一番強いですが、独特の抗不安作用があり、双極性障害に限らず、細かい気分の揺れ、不安を伴う気分変動に効果が期待できます。保険の取り扱い上、リチウムとの併用ができない(リチウムがてんかんに禁忌であることから)ことが難点です。
次回は気分調整薬の最後、非定型抗精神病薬についてお話しします。

コメント

  1. 隊長 より:

    こうして分化されるとわかりやすいですね。
    いろいろあるのですね。
    今、業務でうつのことに関わっているときもあるので、参考になります。

  2. 横浜院長 より:

    隊長さん
    業務でうつに関わることもあるのですね。参考にしていただけますと幸いです。
    そういえばみなとみらいはご近所でしたね。アニミカフェもよろしくです。

  3. あたたZ より:

    双極性障害II型、急速交代型の患者です。
    現在、以下の処方がされています。
    ・炭酸リチウム
    ・バルプロ酸ナトリウム
    ・クロナゼパム
    ・オランザピン
    今まで何も懸念なく処方されていましたが、
    今回の読ませていただいた記事のクロナゼパムの部分に、
    ・保険適用はありません
    ・リチウムとの併用はできない
    とありました。
    私の今の処方は間違っているのでしょうか。
    また仮に間違っているのでしたら主治医に相談すべきでしょうか。
    ご回答の程宜しくお願いします。

  4. 横浜院長 より:

    あたたZさん
    あくまで、保険上問題があると言うことです。「処方が間違っている」わけではありません。自治体によっても、保険者によっても扱いが違います。神奈川県は査定が厳しく、当院ではリチウム+クロナゼパムは査定の対象として処方しないことにしています。私も東京で仕事をしていた時は普通に出していました。医療の立場からするとおかしな話ですが、決まり事ですのでやむを得ません。あたたZさんの自治体、保険者の扱い次第だと思います。