横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.106 逆耐性現象

横浜院長の柏です。毎日暑いですね。夜、クーラーをつけずに不眠実験を続けていますが、そろそろ限界かな(^_^;
前々回の続き、脱法ハーブ(ん?危険ドラッグと呼ばないといけないのかな?)のお話の続きをしましょう。覚せい剤や脱法ハーブの本当の怖ろしさは、これらを繰り返し使った者に現れてきます。
普通、薬って繰り返し使っているとだんだん効かなくなってくるものが多いですよね。われわれの分野では、抗不安薬や睡眠薬がそうですね。きちんとした管理のもとで使わないと、効きが悪くなり同じ効果を得るためにはより多くの量を必要とすることとなることがあります。これを耐性といいます。バイ菌をやっつける抗生物質なども、漫然と使っていると耐性菌が出現し、同じ量では効かなくなってしまいます。これも、意味は若干異なりますが耐性ですね。
逆耐性現象とは、読んで字の如く耐性の反対の現象です。つまり、覚せい剤や脱法ハーブは、使えば使うほどその薬に対して体(脳)が敏感になっていきます。普通であれば、少量を使えば軽くトリップできて快感を得られ、量が多くなると幻覚妄想をおこしたり中毒をおこすものですが、逆耐性ができると、少量から幻覚妄想など危険な状態となるわけです。
プロになるとこのあたりがわかっていて、徐々に量をおとして上手にコントロールするらしいですが(^_^;、極めて無理がありますし普通の人にできることではありません。繰り返し使う度に、幻覚妄想や問題行動をおこす確率が高くなっていく、これが覚せい剤や脱法ハーブのこわいところです。
ここまでですと、もうやらなければいいじゃん、となりそうですが、それですまないのがこの問題の奥深いところです。
統合失調症という病気があります。思春期以降に発病し、覚せい剤などなしに幻覚や妄想などを引き起こす病気ですが、この病気にかかるとその後些細なストレスで症状が容易に幻覚や妄想が再燃するようになります。これは脆弱性(ぜいじゃくせい)と呼ばれ、うつ病など精神疾患一般にもみられることはブログNo.11, No.69, No.75, No.89と何度かご紹介したところでもあります。
海外の研究で、健常者と統合失調症の方々に極少量の覚せい剤を投与する、という日本では考えられないようなものがありました。結果ですが、健常者では何ともなくとも、統合失調症の方々では幻覚妄想を引き起こしたのです。つまり、統合失調症の方は、ストレスだけでなく覚せい剤に対しても脆弱性を有する、すなわち逆耐性が成立していることがわかったのです。
実はこの逆もまた真でして、覚せい剤、脱法ハーブ常習者の場合、薬を使っていなくても、ストレスによって症状がおこることが知られています。これらを交叉逆耐性と呼びます。
まとめるとこうなります。
【健常者】 ストレス →(^_^)
少量ハーブ→(^_^)
大量ハーブ→(>_<) 【統合失調症】ストレス →(>_<)        少量ハーブ→(>_<)        大量ハーブ→(>_<) 【脱法ハーブ】ストレス →(>_<)        少量ハーブ→(>_<)        大量ハーブ→(>_<) (^_^): 問題なし (>_<): 幻覚妄想など何らかの問題をおこす

脱法ハーブをやっていると、日常のストレスでも不調をきたすようになってしまいます。生活というのはある意味ストレスの連続ですから、これではたまりません。
私の外来にも、以前若気の至りでシャブに手を出し、今は足を洗っているけれども慢性に幻覚妄想状態を繰り返している女性の方が数名いらっしゃいます。
脱法ハーブに手を出すということは、一生こうした問題を抱えることになる。ブログを読んでいただいた方は、しっかりと意識を持っていただきたいと思います。
最近、診察の際にこのブログや音楽の話が出ることがあり、うれしいやら恥ずかしいやらです。数日前来院されたマズルカ好きのW.Nさんへ、その時お話しした私の好きなマズルカはこれ、作品50-3嬰ハ短調です。若きキーシンの映像でどうぞ。ちょっと叙情的に過ぎるかしら?

コメント

  1. 風神雷神 より:

    先生、今回も神の手ですよ!薬指の上がり具合、指間の開き具合など、言葉では言いあらわせません。最近先生の動画を見るうちに、何の知識も持たずに音楽を聴くのはもったいない、と思うようになりました。勉強するのに何か良い本か何かがあれば教えてください。

  2. パパゲーナ より:

    薬物のお話ありがとうございました。院長先生のお話しにあるとおり、私の旧知の方々も、コカイン、覚醒剤からとうに離れて久しいというのに、何かの拍子に、薬物を使っていた時の脳の回路がつながってしまうらしく、統合失調症様の症状に襲われて、人生を台無しににされてしまっています。
    脆弱性。。。自分はうつですが、脳は一度獲得した病的な回路をなかなか忘れてくれないということでしようか。ワタクシもうつの脆弱性に悩まされておりますが。
    けれど、ワタクシは柏先生という素晴らしい、主治医に出合えた自分の身の幸せに感謝しつつ、しばらくは健康一筋にやって行きたいと思います。
    体調が良くなって音楽を聞くことのできる、ハートクリニック同窓の皆様に、美しい音楽の贈り物をいたしたいと思います。
    ホフマンの舟歌
    カバリエの歌う宝石のような一曲です。
    http://www.youtube.com/watch?v=RxZSP1Dc78Q&feature=youtube_gdata_player

  3. 横浜院長 より:

    風神雷神さん
    運指のこと、大変よく見てらっしゃいますね。
    浅学にして音楽の勉強の本はよくわからないのですが、楽譜を見ながら聴くのはいい勉強になると思いますよ。大きな声では言えませんが、ネットでたいてい見ることは可能ですし。
    あとは、指揮者の故・岩城宏之さんの文章はとても面白いです。お勧めです。
    パパゲーナさん
    舟歌ありがとうございます。歌は苦手分野なので助かります。
    うつもパニック障害も、脆弱性は治療上大切なところの一つです。このあたりは外因、内因、性格因の関係性とも絡んでくるところで、同じうつ病でも個々人で治療戦略が変わってくるところでもあります。しっかり取り組んでいきましょうね。

  4. 風神雷神 より:

    はい!(^∇^)

  5. バパゲーナ より:

    獲得した脆弱性に、自分でも思いがけないものがあったりと、未だに驚かされますが、都度都度、柏先生のにご相談しながらやってきています。これからも宜しくお願い致します。
    先日、ホフマンの舟歌のつもりでUPさせていただいた曲、ワタクシ間違えてしまいました。(プッチーニのジャンニ•スキッキのアリアでございましたf^_^;)みなさま申し訳ございません)
    下記がオッフェンバックの、〈ホフマンの舟歌〉でございますf^_^;)
    http://www.youtube.com/watch?v=3DVkGTbIBR0&feature=youtube_gdata_player
    何はともあれ、疲れた心を癒してくれる珠玉の一曲です。