横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.140 病者の役割

横浜院長の柏です。会議のためこの週末は仙台におりました。帰りの東北新幹線の中でこの文章を書いています。
今日は、前回に続いてかなり大切なところのお話をします。うつ病の治療は生活習慣病と同じと考えて、どっしりと腰をすえて取りかかる必要があります。急性期にはとにかく休むこと。ある程度回復してきたら、徐々にリハビリを行い(Ingressお勧め(^^; )、元の生活レベルに近づけていくこと。これが基本なのですが、とくに最初に休むというのが、実はなかなかに大変なことだったりします。医師は診察により、うつ病の急性期と判断すればしっかり休養を取れるよう、診断書を書いたり周囲にかけあったりします(診断や状態像、状況によっては休まない方がよいと判断される場合もあります)。しかし、とくにメランコリー気質の強い内因性うつの方に多いですが、休むことをよしとせずむしろ罪悪であると考えてしまい、休職指示を無視して職場に出向いたり、家にいても業務やメールチェックに勤しむ方がいらっしゃいます。生真面目で勤勉な性格が表れていますね。厳しい言い方となりますが、これではうつはよくなりません。休むべき時には休む。動くべき時に動く。これが、うつの治療の基本の「き」となります。
「病者の役割」(sick roll)と呼ばれる大切な概念があります。これは、うつ病に限らず、また精神科に限らずあらゆる病気にかかった方に共通する重要事項です。これは、「病気になった者は病気であるがゆえに、本来であれば課せられる義務を免除される一方で、新たな義務を負う」というものです。
ではここで問題です。ここでいう、免除される義務と新たに課せられる義務とはそれぞれ何でしょうか。ここまでの流れで、もうお分かりですね。
そうです。免除される本来の義務とは、社会人であれば仕事、主婦であれば家事育児、学生であれば学校ですね。これらは、本来生活をしていくために必要なことであり、また周囲や社会からもそれを行うことを期待されていることです。病気になった者は、(その病気の程度に従って)それらを免除されます。もちろん、現実にはなかなかそうはいかないこともありますが、考え方としてそうあるべきだということは頭に置いておいて下さい。
しかし、皆さんはもうお分かりと思いますが、じゃあうつになったら仕事をせず、好きなことをして遊んでいていい、というわけではありません。仕事をしない権利は、新たな義務を生みます。それは何でしょうか。
正解は、「病気(うつ)をよくするために最善をつくす」です。すなわち(私の立場から申し上げるのも恐縮ですが)治療者(専門家)の指示に従い、正しい療養を行うということです。休むべき時は休む。薬をのむべき時はのむ。予約日にはきちんと通院する。指示に従い、規則的な生活を続ける。これができてはじめて本来の義務を免除される、それが「病者の役割」の教えるところです。治療にあたられている方は、ぜひ頭に置いておいて下さいね。
ここまで書いて、新幹線からNHKホールへ直行、シベリウスの2番(No.102でご紹介しましたね)を聴こうとN響定期に足を運びました。シベリウスも素晴らしかったけど、この日の出色はヴァイオリン独奏のクリストフ・バラーティでした。プログラムでのバルトーク第2協奏曲もよかったですが、アンコールで弾いたシューベルトの魔王(エルンストによるtranscription)の超絶技巧が圧巻でした。YouTubeに10年前の映像がありました。でも、今日の方がすごかったと思いますよ。ではまた。

コメント

  1. mos_mos より:

    「患者の役割」
    なるほど〜さすがです。
    私は「休職からの離職したタイプ」ですが、退職以降は気持ちの持って行きようが難しかったです。職業なし、というのは、社会的な立場が全くなくなってしまったような気持ちが強くて、「わたしって「無職の○○です。」って挨拶するのか…?(もちろん、そんな事しませんが)などと自暴自棄になってました。
    今は少しづつ簡単な仕事ができるようになりましたが、それはそれで「私のようなものが行政の福祉サービスを利用していいのか」(所詮きれいごとなので、もしなくなったら生活は崩壊ですが)とか、「症状が安定しているのに予約入れてるから、もっと困っている人の邪魔してるんじゃないか」などなど、いつまでたっても「患者の役割」果たせてません…(; ̄O ̄)

  2. パパゲーナ より:

    柏先生、こんにちは(^。^)
    いつも柏先生の余談にばかり喰いついてしまう、バパゲーナでございます。
    ドクターというのは本当に本当に、タフでエネルギッシュな選ばれた方達ばかりなのですネェ。頭脳明晰な学者であることは勿論のこと、患者を心と身体を癒し、日々の激務の合間を縫って、超短期間でイングレス•レベル7にまでUPされてたり(かく言うワタクシは未だレベル1

  3. 横浜院長 より:

    mos-mosさん
    真面目な方ほど、ご自分を下げて周りを上げてしまいますよね。
    医師から病気であると診断され、福祉サービスを奨められているのであれば受けてしかるべきです。サービスを受けることにより生活が安定し、病気が改善することが見込まれるわけですから、サービスを受けること自体も立派な「病者の役割」です。
    外来も、あまり遠慮しないで必要なタイミングでいらして下さいね。
    パパゲーナさん
    おや、まだレベル1ですか?歩きましょう、歩きましょう。
    私はレベル8まで来ました。今日は仕事で訪れた都内でひたすら経験値上げの一日。1万2千歩でした。
    歩いてばかりでブログの更新が遅れてます。すみませんm(_ _)m

  4. いちご大福 より:

    先生こんばんわ
    人って生きている限り義務を背負い続けるんですね。
    久しぶりに覗きに来ました。
    話少しズレますが…
    限られた時間の中で伝えたいことを先生に伝える一番いい方法ってなんでしょう?
    気になることが2、3あったのですがあまり煩わせるのも気が引けます
    なにかいい方法ありますか?
    もしありましたら教えていただけたらと思います。
    よろしくお願いします。
    あ!もうこんな時間でしたか…
    今日はもう失礼して薬飲んでがんばって寝ます。汗(;´Д`A
    失礼します。

  5. 横浜院長 より:

    いちご大福さん
    >>限られた時間の中で伝える方法
    そうですね。皆様いろいろ工夫されていらっしゃいます。
    一番簡単なのは、気になること、お聞きになりたいことを文章にまとめて、書いてきて下さることでしょうか。あまり長文になってしまうとその場で読めないこともありますが、簡潔にまとめていただければよりスムーズにお答えできると思いますよ。ご一考下さい。