横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.010 不安とうつ

横浜院長の柏です。
このブログも、その時々のできごとを書いているうちに10回目となりました。このあたりから、本格的にこころの病気について、私なりに日頃思っていること、考えていることを書いていこうと思います。
第2回のブログの通り、当院ではご来院者のうち7割以上の方がF3:うつ病圏、F4:不安障害圏となっております。「不安」と「うつ」は、現代のこころの問題の最大のキーワードと言ってよいでしょう。
さてここで、最初におさえておくべきことがあります。それは、「不安」も「うつ」も、本来人間に備わった、生きていく上で必要な能力であるということです。いずれも、危険から身を守り生き抜いていくために、動物としての人間に与えられた能力なのです。それはどういうことでしょうか。
「不安」とはその元を辿れば、肉食動物が近くにいることに気づいた草食動物における、体の適応反応でしょう。ぼうっとしていては食べられてしまいます。身を守るためには、いつでもそこから逃げられる状態を作らなくてはなりません。すぐに走り出せるように心肺機能を高め(鼓動を早め、呼吸を荒くする)、全身の筋肉を緊張させます。食欲を下げ、胃腸の機能を落としてその分の血流を筋肉に送ります。瞳孔を開いて回りがよく見えるようにし、周囲に敏感に気を配ります。これが不安緊張状態、交感神経優位の状態であり、動物が身を守るためには必要な状態であることがお分かりいただけると思います。
一方、こうした状態が長く続くとどうなるでしょう。例えば、肉食動物に追われて穴に逃げ込んだものの、まわりで肉食動物があきらめずにずっとうろついている状態を考えましょう。はじめは不安緊張状態で脱出に備えますが、長くなると徐々にあきらめの気持ちが出てきます。ゆううつな気分が支配し、やる気がなくなり、力を抜いて横たわってしまいます。これが「うつ」の状態です。これはどう考えたらいいでしょうか。どうしてこういう状態になるのでしょうか。これは、動物が「省エネ」モードに入っているのだと私は考えます。
不安緊張状態では、いつでも逃げ出せるようにエンジンをずっとアイドリングしていなくてはなりません。これでは、いずれガス欠を起こします。短期のストレスでは「不安」が有効な対処手段ですが、長期のストレスになるとそれだけではだめで、残されたエネルギーをどう有効に使って逃げるかを計算しなくてはなりません。そのための有効な方法が「うつ」なのだと思うわけです。
ゆううつでやる気がなくなることで、無駄なエネルギーの浪費を防ぐことができます。気持ちの上ではあきらめたようでも、生体としては実はあきらめてはいないのです。エネルギーを節約しておくことで、チャンスがあれば逃げるだけのエネルギーを残しておく。そうすることで、生き残る可能性を少しでも高めるための合理的なメカニズムが「うつ」なのではないでしょうか。(この「うつ」の成因については異論もあろうかと思います。あくまでも私の考えです。)
次回以降は、不安とうつについてより詳しく、さらにこれらと病気との関係についても、ゆっくりお話ししていきたいと思います。

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