横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.065 水兵リーベ・・・

横浜院長の柏です。仮面ライダー鎧武、始まりましたねぇ。今までのライダーのいいとこ取りを狙っているように見えますが、今後の展開はいかに。
さて双極性障害のお薬シリーズ、第1弾は炭酸リチウムLi2CO3です(商品名リーマスなど)。リチウムといえばリチウム電池などでおなじみ、化学を履修された方は水兵リーベ僕の船、で覚えたでしょう周期表、その原子番号3番がリチウム、一番小さいアルカリ金属です。ナトリウム、カリウムと同じ列にあり、一価の陽イオンを作ります。
hitori65-a.jpgほとんどの向精神薬が亀の子がつながった複雑な有機化合物であるのに対して、炭酸リチウムはきわめて簡単な構造であり、治療には実は炭酸リチウムだけでなくクエン酸リチウムも用いられることからもわかるように、リチウムイオンLi+が有効物質です。このようなシンプルなイオンがなぜ波をおさえ、気分を安定させるのか・・・まだよくわかっていないんですね。グリコーゲン合成酵素キナーゼ3ベータ(GSK3β)、イノシトールリン酸系などといった、なにやら難しい細胞内伝達系との関連は実験で示されています。しかし、そうした機序でどうして躁うつの波が小さくなるかはよくわかっていません。ところで神経細胞の活動というのは電気をもってなされており、それにはナトリウム、カリウムの2つのアルカリ金属イオンが重要な役目を担っています(神経細胞が興奮するとナトリウムイオンが流入し、カリウムイオンが入ると抑制される)。リチウムイオンはナトリウム、カリウムと同じアルカリ金属ですから、これらと拮抗するなりして、過剰な神経活動の反映としての躁うつの波を鎮静化する・・・これは私の妄想ですが、そんなにはずしていないんじゃないかと思っています(直感であり、科学的根拠はありませんのでつっこまないで下さいね)。ちなみに福島で有名になったセシウムもアルカリ金属ですね。
さてこのリチウムですが、1949年にCadeにより抗躁作用が発見されたのが臨床応用のはじまりです。それ以来64年になりますが、双極性障害治療の王者、切り札であり続けています。私も、はっきりした双極性障害であればまずリチウムを使うことを考えますし、波が安定しない場合、副作用が出ず血中濃度が中毒域に達しない範囲で十分量をしっかり使うことを考えます。先日も、かつて入退院を繰り返していたが、その後リチウムで10年安定していた方で、年齢も考えてリチウムを減量したとたんに躁転し入院を余儀なくされたケースがありました。リチウムの重要性とともに、双極性障害の長期治療の必要性を再認識したケースでもありました。
治療ガイドラインを見ても、日本うつ病学会のものや、世界的にも有名なカナダ気分障害・不安障害治療ネットワーク(CANMAT)のものとも、躁病エピソード、うつ病エピソード、維持療法いずれもリチウムは第一選択のひとつとなっています。うつ病エピソードに対する作用は十分ではないという報告もありますが、経験的にはケースにもよりますが十分に抗うつ作用も期待できると思います。なお、うつ病学会のガイドラインは、双極性障害、うつ病ともに充実した内容となっています。専門的で難しいところもあるでしょうが、治療を受けられる方はぜひご覧になるとよいと思います。
リチウムで気をつけなくてはいけないのは副作用です。量が多すぎると、リチウム中毒と呼ばれる神経症状を起こします。吐き気、めまい、ふるえなどがその初期症状で、中毒予防のためにリチウムは少量から開始し徐々に増量、途中で血中濃度を測定して安全域にあることを確認します。
なんせ古い薬ですから、薬価も安い。リーマス錠200mgを一日4錠のんでも3割負担で26円。ジプレキサ10mgを2錠のむと286円ですから1/10以下ですむ計算です。私、たくさん処方してますけど、大正製薬さん売り込みに来たこと一度もないですね。もちろん、値段よりも有効性・安全性が大切ですが、同じ効くなら安い方がいいですよね。その意味でもよい薬だと思っています。
余談ですが、セブンアップという炭酸飲料がありますね。その「アップ」というのは、発売当初の1920-50年代(Cadeの報告より前ですね)に「精神昂揚作用のある」クエン酸リチウムが添加されていたため、とウィキペディアにあります。まあたしかにうつを持ち上げる力はありますが、精神昂揚作用??鎮静化作用ならともかく、ちょっと疑問が残ります。また、リチウムは天然水中にも存在するのですが、リチウム濃度の高い地域では精神科病院への入院率が低い、自殺率が低いなどのデータも出されており、興味深いところです。学会での大分大学からの報告をあげておきますね。

コメント

  1. 隊長 より:

    高校時代の得意科目が化学だったので、興味深い内容でした。 あ、文系です。
    リチウムにそういう力があるとは。
    化学式も楽しいです。
    しかし、副作用については怖いですね。過ぎたるは~ですね。

  2. 横浜院長 より:

    副作用、ちょっとこわく書きすぎましたかね(汗)。リチウムに関しては私たちも相当慎重に考えていますので、副作用が出ないか確認しながら少量からゆっくり増やしていきます。血中濃度も定期的にチェックして中毒域にないかを確認します。よいお薬であり、これによって救われる方がたくさんいることを考えると、あまり怖がりすぎるのももったいないことになるんですね。

  3. まねきねこ より:

    仮面ライダーも新シリーズですか。ウィザードの人は、スターになるのでしょうかね。数か月前、関口友宏氏が中国奥地を旅する番組で、中国の小さな家のテレビで仮面ライダーV3を放送していました。超懐かしい!3歳くらいの子供がテレビの前で一緒に主題歌を歌っていました。しっかり日本語で。願わくば、仮面ライダーオタクに育って、親日家になって欲しいです。村上弘明さんは、今でもかっこいいですよね。(^^)
     水兵さんのリベは僕の船・・・でしたよね。なつかしくもおぞましい化学の記憶(笑)。あのころは全く興味もなければ面白味も感じませんでしたが、病気になってから、ああ、化学って面白かったのに、もっとちゃんと勉強しておけばよかったなあと思います。後の祭り。でも、病気にならなかったら、化学の話を一生つまらないと思っていたでしょう。それにしても、先生のお話はきっちり正統派。ウンコとか寄生虫とは世界が違う!爆笑!いやもう、講師の先生、藤田先生ご本人も、「品格がないと何度も大学から叱られました」とおっしゃっていました。まあ、ウンコも大事なことなんですけど。

  4. 横浜院長 より:

    まねきねこさん
    特撮は国境を越える、ですね。すばらしいことです。
    V3といえば宮内洋が、やはりズバット、アオレンジャーの印象もあって私的にはライダーアクター一番ですねぇ。フォーゼのお兄ちゃんまで人気者になるとは予想外でしたが。

  5. あすか より:

    躁鬱病でリーマス600mg 内服中です。
    リチウム中毒が怖くて、少しでも気分が悪くなると飲むのをやめてしまいます。前回血中濃度は0.8でした。
    リチウム中毒は滅多にないことですか?
    先生は何例くらい見られたことがありますか?
    リチウム中毒になるとどのくらいで症状は治まりますか?おうと恐怖症があり、吐き気が何時間も続くと思うと怖くて薬が飲めません。

  6. 横浜院長 より:

    あすかさん
    ご質問ありがとうございます。
    リチウムですが、脳内で濃度が上がりすぎるとたしかに中毒として神経症状を起こすことがあります。ただ、少量からはじめてゆっくり増やしていくので、いわゆる「リチウム中毒」まで経験したことは大量服薬の場合以外はほぼないと思います。ただ、本文にも書いたように中毒に至る前に人によっては吐気やめまいなどの症状が現れることはたしかにありますが、その場合は服用を止めればそんなに続くものではありません。躁うつ病とのことですが、躁うつ病は不安症状を合併することがしばしばあります。不安障害としての嘔吐恐怖の治療も並行して行うこともご検討ください。また、リーマスは躁うつ病治療では基本の薬ではありますが、最近は有効な薬もふえています。どうしても不安が拭えないなら、他の薬を使うことも主治医とご相談ください。