横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.068 病の起源・うつ病

横浜院長の柏です。以前にここでもお知らせしましたNHKスペシャル「病の起源」第3集 うつ病〜防衛本能がもたらす宿命〜 ご覧になりましたか。
内容を振り返ってみますと、天敵の魚と長期間同じ水槽に入れられていた魚がうつ病のようになるのは、学習性モデルと呼ばれる標準的な動物のうつ病モデルに近く、また扁桃体の暴走というのも不安・抑うつの標準的モデルであることなど、至極まっとうな内容だったと思います。
農耕のはじまり、文明社会のはじまりとともに貧富の差が生じ、そのことがうつ病の要因になっている、というのは鋭い視点でしたね。平等が失われたところから、うつ病の種が撒かれてきているわけです。扁桃体の活動が、損をしても得をしても高くなり、損も得もしていない時が一番低い(落ち着いている)という実験結果はとても重要で、「損だけでなく、得をしても高くなる」というところが特に重要と思われました。番組では、自分の意志で動ける仕事よりも指示されて動く仕事の方がうつ病が多い、とありましたが、この実験結果によれば、被支配層も支配層も、どちらもうつ病になる可能性を秘めているわけです。平等に生きるアフリカ・ハッザの人々にうつ病は見られないとのことでしたが、以前の同番組では糖尿病も見られないことが報告されており、うつ病と糖尿病の関連も興味深いところですね。
気になったのは、うつ病が「進化上、生存上の必要から生じた」という視点が弱かったこと(ブログNo.010で提唱させていただいたことです。まあ、パクられなくてよかったとも言えますが)、薬物療法についてネガティブにとられかねない表現がなされていたことでしょうか。適切な薬物療法はうつ病治療においてまず試みられるべき方法ですし、番組でも紹介された脳の萎縮など、うつ病の長期的影響を予防するためにもとても大切な治療です。番組で紹介されていた DBS(深部脳刺激)などはあくまでも薬物療法で十分な効果が得られない場合に考えることです。わが国でも、以前ご紹介したrTMSに加えて、DBSも臨床研究を控えた段階にあると聞いています。今後が楽しみですね。TLC(生活改善療法)のことも紹介されていました。ハッザの人々などの生活を参考に、社会的な結びつきの回復、運動、生活習慣改善などを行うとのことで、常日頃外来で指導、工夫を重ねているまさにその部分ではあるのですが、あらためてその大切さを再認識するよい機会になったかと思いました。
ところで今日の朝日新聞のトップ記事は、デザイナーベビー(遺伝子解析で病気にかかりにくいなどなど、親の希望の子どもを作る)に関わる特許が認められたとの内容でした。賛否両論とのことでしたが、私はこれは人類滅亡の引き金となりうる危険な方法だと考えます。氷河期など飢餓状態では糖尿病の人の方が生き残りやすいだろう、という話を典型に、私は病気には必ず存在理由があると考えています。うつ病しかり、統合失調症しかりです。このようなデザイナーベビーが一般的となった場合、遺伝子解析でわかる病気にかかりにくくなっても、種の存続に関わる何らかの危機に対して、かえって弱くなってしまう危険が大きいと思います。遺伝子治療により一世代の中で個人・個体の病気を治すことと、世代を超えて遺伝子技術により望まれる子どもを作ることとは次元が違います。これはもう「神の領域」であると考えるのは私だけでしょうか。

コメント

  1. 隊長 より:

    携帯のワンセグで見ていたので、細かい描写は見られませんでしたが、興味深い内容でした。
    魚までもが、というのがビックリです。
    群れを成していて、天敵が襲いに来ても逃げられない運命なのでしょうか?
    平等社会が崩れた結果の文明病であることも意外でした。
    かなり前からあったことになりますね。
    デザイナーベビーは神の領域に人間が踏み込むことになると思います。

  2. まねきねこ より:

    えっ?先生が何のために生きているのか、普段考えていないというのは、意外でした。でも、それは「普段」ということだと思いました。大きな志としては、精神科医として、いろいろおありで、そういう事に関して、羨ましく感じますが、能力のある人に託されたことは、能力にある人の身に与えられた試練でもあったりするので・・・でも、優秀な人間に生まれて、そういう苦労がしてみたかったと思うことは贅沢なのか?と考えたりもします。同じ苦労なら。
     さて、「病の起源」の前の日(土曜日)、「世界ふしぎ発見」では肥満を特集していました。これがまた、人類を遠くさかのぼって肥満という病の起源をたどっていました。農耕が始まって、格差社会が始まってから人類に肥満が現れたことや、太陽をきちんと浴びた規則正しい生活、適度な運動、きちんとした睡眠などが治療になるなど、うつ病と重なる部分が多かったのです。要するに、飢餓に対する自己防衛が過剰に働いてしまったとか。文明病ということも、うつ病と同じでした。この先、うつ病、肥満のほかにも文明病は増えるのでしょうね。スマホもやばい!それにしても、頭に穴をあける手術はちょっと勘弁してほしいですねえ。西洋の人は、道路工事みたいなことがお好きで。ショッカーみたい(^^;)

  3. 横浜院長 より:

    隊長さん、まねきねこさん
    こんにちは。ショッカーも神の領域に踏み込んでるかもですね。
    肥満の特集、私も見たかったですねぇ。
    肥満、糖尿病ときて、うつ病も生活習慣病の一つといって過言ではないでしょう。
    であれば、うつ病の治療には生活習慣の見直しが必須であり、運動や食事の改善も必須となるわけです。