横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.207 いじめ後遺症

横浜院長の柏です。キュウレンジャー。サソリが敵か味方かとか(サソード?)、いて座が強敵だとか(サジタリウス・ゾディアーツ?)、なんだかどっかで聞いたような設定ばかりではありますが(笑)、なかなかいい感じですね。
さて、なんせ小市民ですからテレビネタばかりですみません。今日は、先週月曜朝にNHK「あさイチ」で放映された「いじめ後遺症」について書きましょう。本編(2/6)はこちら。映像はこちらにあります。私が実際見たのは反響編(2/20)でした。
子供の頃のいじめ体験が、大人になっても後を引きずり、自己否定する、対人場面を避ける、引きこもる、うつ病・社会不安・摂食障害など多彩な病気をきたす…これが「いじめ後遺症」と呼ばれる状態です。
いじめとは、文科省によると「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」と定義され、起こった場所は学校の内外を問わない、とされます。小学校から高校までの児童思春期における外傷体験が、大人になっても大きな影をおとす…これまで見過ごされがちだった観点ですが、私の外来でもいじめやリンチなどで大きな心の傷を追われた方が多くいらっしゃいます。前回お話した身体醜形障害や、似た病気ですが自己臭妄想(自分から嫌な匂いが出ていて、まわりがみな自分を避けている、と信じこむ)なども、いじめ後遺症と絡んで出て来る方も多いように感じています。
いじめは100%いじめる側が悪いのですが、いじめる側が圧倒的に優位にあること、多対一であることが多いこともあり、とくに慢性的にいじめが繰り返された場合、圧倒的な無力感に襲われ、同時に自分が悪い、自分に責任がある、という方向に思考が走ってしまいます。
番組でも強調されていましたが、こうした自責の念が続くと、自尊感情(self-esteem)が失われてきます。自尊感情とは、自分を大切にする気持ち。自尊感情が育つためには、今の自分で大丈夫、今の自分のままでいいんだ、という自己肯定感を持っていることが必要です(自己肯定感についてはNo.126でもふれております)。まじめな方ほど、こうした状況で自分を責めてしまい、自尊感情を失う傾向にあるようです。
いじめ後遺症からの回復するためには、この自尊感情の回復、自己肯定感の回復が必要です。そのためには、、その時の圧倒的な気持ちをいったん置いて、客観的な視点からいじめの経験を冷静に振り返ること。自分が悪かったんじゃない。自分の責任でなったことではない。そうした正しい認知を持つことが、回復の大きな手がかりとなります。
これまたテレビネタで恐縮ですが、先週土曜の世界一受けたい授業では、ガイ・ウィンチ先生が「自分の長所を5つ書き出してみる」というやり方を示しておられました。実はこれは私もよく出す宿題です。私の場合、欲張りなので10個書いてきましょう、とか言ってしまいますが(笑)。
そんなこと言われても、私には長所なんか一つもない…そうおっしゃるあなた。そんなことはありません。いじめ後遺症に悩む方々、いや、もっと広く当院の扉を叩かれる方は基本的にまじめで優しい…いや、まじめすぎて優しすぎる方々が多いのです。必ず長所はあります。見えていないだけなのです。一緒に長所を探していくことも、大切な外来治療の柱の一つです。自尊感情の、自己肯定感の回復に向けてじっくりと、進めていきましょう。
今日の一曲、ピアノ曲が続いたのでここらでチェロにしましょうか。哀愁のチェロの響き、シューベルトのアルペジョーネ・ソナタ イ短調D.821をヨー・ヨー・マのチェロでどうぞ。サントリーホールのライブみたいですね。ではまた。

コメント

  1. パパゲーナ より:

    柏先生、いつもお世話になっております。久々にブログにカキコさせて頂きました、パパゲーナです(^-^)
    いつの時代も“いじめ”というものがあり、いじめられている子供達の傷付いた心と、恐怖、自尊心の破壊に思いを馳せる時、わたしも胸が張り裂けそうな心になります。
    子供達は余りにも未熟であり、そしてそれ故に残酷です。
    いじめられている事をなかなか口に出来ず子供の自尊心、親に心配をかけまいとする意地らしさ、それをようやく知ることのできた時の、ご家族の悲しみ。子供達に人の心を慮る教育に力を注いで頂ければと願います。
    今回はヨーヨー•マの演奏ですですね。この方の演奏は本当にカッコ良くて、近年は分かりませんが、若い頃の演奏はカッコイイよ過ぎる所に、なんとなくガッカリ感を感じたものです(笑)
    仲良しのパールマンとの演奏会やトリオでの演奏会を経て、気取りの匂いも消えてきてとてもイイな〜。。。と、思えるようになりました。神様カザロフや闘う演奏家ロストロポーヴィチのSPを聞くともなく聴いていたために、耳が奢って保守的なオーディエンスになってしまいがちで、気をつけています。(ちなみにマイスキーはシックリしない自分です)
    今日はNHKでカルメンのガラを放送していました。以前全幕鑑賞できた時のウキウキ感が復活しました。以前、フランスの方に伺ったんですが、フランスの小学生に見せる最初のオペラは“カルメン”なんだそうです(笑)確かにフランス語演目ですが、恋愛の国フランス。セレクトがスゴイな❗️と思うのです(≧∇≦)

  2. パンダマン3世 より:

    ご無沙汰してます。
    「いじめ」は、心と体に大きな傷を残すという点では、当然「人権侵害」でもあります。しかもエスカレートすれば暴行・傷害・脅迫という刑法にも抵触する案件であるはず。なのに「こども同士の話」「ふざけあっているだけ」と大人の側が矮小化して本質を見誤っている部分も大きいような気がします。もっとも、大人の世界でも、相撲部屋、企業、自衛隊等々で、同様な事件もありましたから、大人の世界を映し出す鏡という視点も忘れてはならないですね。

  3. 横浜院長 より:

    パパゲーナさん
    お久しぶりです。なかなかお見えにならず寂しいですよ(^o^
    私も、ともすると保守的になりがちなので、最近はいろいろ聞くようにしています。
    ここでも、動画のあるものを優先することにしたので、これまでよりもいろいろな演奏家のものが出てくると思います。お楽しみいただければ幸いです。
    パンダまん3世さん
    こんにちは。いやほんとです。部活のしごきも、それがもとでうつ病をきたしているような患者さんもいらしています。大人、子どもを問わず皆が住みやすい世の中になってほしいものです。