横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.385 メインかサブか

横浜院長の柏です。私としたことが体調を崩して少々お休みをいただきました。たぶん休んだの11年ぶりですね。いろいろご不便・ご心配をおかけしましたが、現在は通常運転に戻っておりますのでどうぞご安心下さい(^_^)。
さて、最近は大人の発達障害のことで頼まれることが多く、相談やインタビュー、講演などいろいろお受けしているのですが、今目の前にある当事者の困りごとがどこからきているのか、そこをもう少し掘り下げると対応の仕方もわかり、困りごとをへらすことができるのになー、と思うことがままあります。
そこで、今日はここをテーマにいたします。一番のポイントは、発達障害そのもの(メイン)からくる症状・症候と、イライラなどの随伴症状やうつ病などの二次障害(サブ)からくる症状とをきちんと区別(鑑別)することです。
例えば、会社で上司や同僚との関係がうまくいかない、というのが困りごととします。この場合、まずは何が困りごとの原因かを探っていくわけですが、ちょっと考えてみても…

  • 上司の指示の意図がわからず、仕事が進まない
  • 失礼な発言をしてしまい、上司の機嫌を損ねた
  • 細かいところにこだわってしまい、仕事が進まない
  • 不注意からのミスが多発し、仕事が進まない
  • 職場でイライラして怒鳴ってしまった
  • 仕事がうまく行かないと固まってしまうことが続き、周囲が持て余している
  • 睡眠が安定して取れず、勤怠に影響が出ている

などなどがあろうかと思います。
さらに、そのうちの「上司の指示の意図がわからず、仕事が進まない」というのは、もっと掘り下げる必要があります。

  • 口頭での指示が頭に入りにくい=聴覚信号処理の弱さ:ASD特性
  • 内容はわかるが意図が理解できない(文脈を理解できない)=社会コミュニケーション障害:ASD特性
  • 意図を早合点して勘違いしている=不注意:ADHD特性
  • 書かれた指示書を読み取れない=読字障害:LD特性
  • そもそも内容を理解できない=求められる知的水準に達していない:軽度知的障害や境界知能、数学能力などの学習障害(LD)など

「失礼な発言をしてしまい、上司の機嫌を損ねた」については、

    • 空気が読めず、失礼な発言になった=社会コミュニケーション障害:ASD特性
    • よく考えずに発言した=衝動性:ADHD特性

さらには、可能性としてありうるものとしては

  • 気が大きくなり尊大な発言をした=軽躁、躁状態:双極性障害の併発
  • 上司への被害妄想からの発言:統合失調症の併発

「職場でイライラして怒鳴ってしまった」は

  • 予想外の事態となりイライラ=想像力の障害:ASD特性
  • 待てずにイライラ=衝動性:ADHD特性
  • じっとしていられずイライラ=多動性:ADHD特性

「睡眠が安定して取れず、勤怠に影響が出ている」についても、発達障害の方では生活リズム、睡眠の乱れはしばしば認められます。とくにADHDの方では37%にexcessive daytime sleepiness(過度な日中の眠気)を伴うとの報告もあり、本質的に睡眠覚醒リズムの問題を抱えている可能性があります。コンサータ=覚醒物質がADHDに効果を示すということは、「眠い病」だから、という考え方もあるのです。ADHDでは過集中からくるやりすぎ、ASDではこだわりがハマったときのやりすぎ、とどちらにしても過集中状態を生じ、そこからリズムが乱れたり、反動で夜眠れなかったりすることもよくあります。しかしまた一方で、不適応を重なる中での不安や気分変動に基づく二次的な不眠の可能性もあるのです。
このように、大切なことはなにか困りごとがあったときに、その困りごとがどこから来ているのか、その背景を丹念に探っていくことが解決のためにとても大切なのです。それがASDあるいはADHD特性から来ているのであれば、いちばん大切なことはご本人が自分の特性を知り、適切な対処を取れるようにすることです。最近では一般向けの優れた書籍もありますので、参考になるでしょう。しかし、なかなか自身を客観的に見ることができない、というのが発達障害、とくにASDの方の本質でもあるので、その場合大切になるのが心理教育という第三者による説明、教育です。発達障害の方の外来とは(私の場合ですが)、前回から今日までの出来事を振り返り、その中で「困りごと」がありそれが特性と絡んでいる場合、それを解きほぐしてフィードバックしていく、という流れで行われます。「プチ心理教育」ですね。お一人5-10分がせいぜいの外来場面でできることとしてはこういう形がベストでして、回を重ねることにより自らを知るようになることを目標とします。しかし、心理教育は医師の専売特許ではありません。福祉、教育、心理、パラメディカル、あらゆる分野で発達障害に関わる支援者に求められていることだと思います。
医師の立場からみると、困りごとの背景により治療方法が変わります。純粋に特性からくる部分は心理教育ですが、ADHDに関してはADHD治療薬(大人では3種類)があります。随伴症状としてみられるイライラ、易刺激性には抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬、非定型抗精神病薬(エビリファイとリスパダールには「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」という保険適応があるのですが、成人の場合は適応外処方としての処方となります)やデパケンなどの抗てんかん薬が処方されます。二次障害としてのうつ病、不安障害、双極性障害などに対しては、それらの精神障害に適合した十分な薬物療法が必要となります。
ASDと統合失調症・強迫性障害、あるいはADHDと双極性障害・境界性パーソナリティ障害・トラウマ関連障害などは、互いに併発することもあれば鑑別診断の対象となることもあるという、治療者泣かせの難しい関係にあります。それぞれの困りごと、症状を丹念に辿って原因となる疾患や状態を因子分析し、的確な治療法を提供する。なかなか難しい作業ですが、これは大人の発達障害診療の醍醐味でもあります。
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今日の一曲は、ムソルグスキー作曲の組曲「展覧会の絵」です。冨田勲によるシンセサイザー編曲版でお楽しみ下さい。なんと、この動画は天才・手塚治虫によるアニメーション版です。天才過ぎてなかなか解釈が難しいです(^_^;。26:20からの終曲は「キーウの大門」。ウクライナの首都であり古都・キーウの安全を願い、今日はこの曲にしました。シェアできない仕様なので、こちらから御覧ください。ではまた。

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