横浜院長のひとりごと

横浜院長のひとりごと No.423 難しい車

横浜院長の柏です。久々のブログ更新となりました。寒暖差の激しかった今年の冬~春が過ぎて、ようやく過ごしやすい気候に…ともなかなか言えない今日この頃ですね。皆様体調は大丈夫でしょうか。

発達障害についての記事がメインとなってきておりますが、今回はADHDの成り立ちについて、これまで多分書いていない観点からお話してみましょう。これまで、時間的・空間的近眼性とか、発達の遅れとか、複数の観点から私なりの考えを述べましたが、今日はそれらともまた違う観点からのお話です。それは「乗りこなすのが難しい車」というものです。

この車には2つのポイントがあります。一つは、そもそもエンジン出力が低いというもの。そしてもう一つは、アクセルやブレーキの微調整が難しいというものです。いかにも乗りこなすのが難しそうですよね。

エンジン出力が弱いので、そろりそろりとしか走れません。ほかの車の流れに乗れず、妨げてしまうのでかえって事故の可能性も高くなります。そこで、スピードを上げようとエンジンを踏み込むと、今度はガッとスピードが出てしまいます。あわててブレーキを踏むとガクッと急停止。まわりからみるとちょっとおっかない運転となってしまいます。

実はADHDの脳の特徴は、基本的にこんな感じだと思われます。ADHD治療薬は基本的にノルアドレナリン系・ドーパミン系(NA/DA系)に作用することが知られていますが、これはADHDでは基本となるNA/DA系の働きが低いためです。ちょっと専門的な話になりますが、神経細胞が出す信号にはtonic(持続的、分min~時間hour単位)な信号とphasic(変動的、相的、秒second単位)な信号とがあります。エンジンをかけるとアクセルを踏まなくてもエンジンは回っていて、アクセルを踏み込むと力が加わる、前者がtonicで後者がphasicというところでしょうか。NA/DA系も同じでして、ぼうっとしていてもtonicな信号が出ていて、なにかに注目したり活動したりする際にはphasicな信号がこれに加わることでそれを成し遂げます。では、ADHDではどうなっているのか、図を使って説明しましょう。かなりアバウトに書いてますんで、神経科学に詳しい方には怒られそうですが(^^;;まあ一般向けのご説明としてご理解ください(明らかな間違いがあればご指摘ください)。

図1で、縦軸は注意力(上に行くほど高い)、横軸は時間軸です。注意力は高すぎても(過集中)、低すぎても(不注意)うまくいきません。なにごともほどほどが吉、適度な集中とは高すぎず低すぎずの集中力です。この集中力の背景にあるのがNA/DA系ですが、定型発達者ではこのtonic NA/DAレベルがあるレベルを維持しています(太線)。適度な注意力のゾーンまでほど近く、phasic NA/DA(赤線)を少し加えることで容易にこのゾーンに注意を持っていくことができます(図2)。

ではADHDの場合はどうでしょうか。ADHDでは、基本となるtonic NA/DAレベルが低いことが知られています(図3で、破線が定型発達者のtonic NA/DAレベル。矢印の先の実線がADHDでのそれ)。

さて、この低いtonic NA/DAレベルという特性のあるADHDの場合、適度な注意力・集中力を保とうとするとより高いゾーンまでphasic NA/DAを持っていかないといけません(図4)。

ここで皆さんにちょっと想像してほしいのですが、バスケットボールのゴールが1.5mくらいの高さと、5mくらいの高さにある場合、どちらが点を入れやすいでしょうか(ちなみに公式では305cmとのことです)。前者であれば、誰でもダンクシュートで簡単に入れられそうですよね。しかし、後者ではどうでしょうか。プロでもなかなか大変、実際には投げたボールが低すぎたり高すぎたり、適切な高さにコントロールするのは困難と思われます。上の図で説明したNA/DAレベルの違いからくる注意力/集中力のコントロールの困難も同様でして、ADHDの方は定型発達者よりも高いゴールにボールを投げないといけないので、届かなったり(不注意)、高く投げすぎたり(過集中)と安定した注意力を保つのが難しいわけです。

車で例えればエンジン出力が弱く、アクセルの調節が難しい車。バスケットボールで例えればやたらゴールが高いバスケットコート。なかなか大変ですね。そんな車をどう乗りこなすかのコツを掴んでいくのが心理教育。そして薬物療法は、薬物によって違いはありますが、おそらく共通するのはtonic NA レベルを高めることです。細かくいうとメチルフェニデート(コンサータ)やリスデキサンフェタミン(ビバンセ)はNA, DAの両者を高め、アトモキセチン(ストラテラ)は前頭葉でのみ両者を、他ではNAのみを高め、グアンファシン(インチュニブ)は前頭葉でNAを介した信号を高めるのですが、共通するのはtonic NA レベルを高めること、ということです。

つまり薬物療法により、エンジン出力を上げたりゴールポストの高さを低くしたりすることができます。あまり加速に神経を使わなくても安全に流れに沿って走れるし、シュートもより楽に打てます。一方、アクセルの踏み加減やシュート技術自体を上げてくれるわけではないようです(phasicへの作用は一定していないようです。このあたり、薬物によって文献によっても違いがありよくわかりませんが)。

というわけで、ADHDの方の抱える困難について、また違った観点からお話しました。わかりやすい例えを使ったつもりなのですが、ちょっと難しかったですかね?

さて、この週末は顧問医を務める某社のイベントに参加するため、仙台まで行ってまいりました。仕事柄ふだん座りっぱなしの私には、一日歩くのはなかなか苦行でしたがこれも健康のため。皆さんもどうせゲームをやるなら健康のために「位置ゲー」をやりましょう。

最後に今日の一曲、仙台ですんでさとう宗幸「青葉城恋唄」にしましょうか。

1978年5月発売、私が高校に入学した頃の曲のようですね。ではまた。

コメント

  1. フォールアウト87 より:

    ときは〜め〜ぐり〜また〜な〜つ〜が〜きて〜♪

    私はブラウンノイズにはまってます